第5話 投資とリアル友人とみよちゃんと

 ここはジダンの浴場。50ドルエン支払うだけで温泉もどきに入れる。

 榊雪菜としての対応に疲れた私も来てみたのだ。見晴らしが良くていい感じだねー。温泉もどきもしっかりと「もどき」の働きをしてくれる。

 はぁー、とゆっくり浸かりたいんだけど、私の150センチしかない小さな体と記者会見で露呈している顔は隠せないのですぐにファンがよってくる。みんな応援してくれてありがとー、今はプライベートだから秘密ね。などと言って交流をはかる。出来ればこういう場ではそっと離れてほしいものなんだけど……。


 ふと横を見ると、私をガン見している少女がいた。どう見ても私の顔だ。ちょっと話聞いてみようか。トリマキにちょっと抜けるねと言って一度場所を変えてから再度その場所へ行く。女性はまだいた、よかったよかった。


「ごめんちゃらすー、私雪菜って言うのだけど、あなたの名前は?ここの浴場気持ちよくて良いね、ライド盗撮対策でタオルと水着着用なのがもったいないけど」

「わ、わたしは! その、えと、ええと榊雪菜のふぁんで、えっと」

「あらありがと。お名前聞いても良い? よく私の顔に似せたねー上手い」

「えっと、その、えっと」


 まあ私のファンじゃないと榊雪菜の顔にはしないだろう。なにか名前にトラウマでもあるのだろうか? 別名義でも良いのにね。

 女の子は意を決したかのように。


「私は、み、み、みよです、竹中美代」

「真実かどうか確認。私が最近行ったドジは?」


 思わず顔が鋭くなる。


「面接の時3時間遅刻してわびの差し入れもってダメ元で学長に会いに行った。学長は意にも介していなかった上にお土産持たされて帰ってきた」

「みよちゃん確定だわ。それは極秘情報だもの。マジでみよちゃん? みよちゃんなの?」

「そ、そもそも確定だよぉ」


 抱きつきたいのを抑えて握手でとどめる。ここでハグはレズビアン行為になるらしい。私たちの関係はそうではない。浴場から上がったらハグしてお話ししよう。


「みよちゃんもTSSやってたんだね!」

「まだフルダイブ出来なかった年齢からコツコツと。限定ダイブでも出来ることはあるから。というか雪菜ちゃんの顔」

「さすがだわ。さすがオタク。私の顔は結構見かけるから大丈夫じゃない? ここまで寄せたのはさすが親友って感じ」

「い、いいのかな。オタクはみんなTSSやってるよ」


 少し世間話をして。


「今TSSでは何をやってるの?」

「交易企業を立ち上げようとしているところ。ウチの学年のオタク仲間でね」

「何それ! 一枚噛みたい! 連れてってよー」

「みんな榊雪菜相手じゃ下向いちゃうよ……」

「私だってTSSやってるオタクだぞ! しかも天買人という超レア職!」


 みよちゃんはうーんと、考え込んでから。


「じゃあ、まあ企業の場所は教えるね」


 といって3層のガレージに連れて行ってくれたのだ。


「みなさん作業中にごめんちゃらすー、榊雪菜です、美代ちゃんの親友の! 本物だよ! ほら、150センチメートルでしょ!」


 その場にいたのは4人。ぎょっとしたあと全員下を向いた。まじだー面白ーい。


「大丈夫、目の前にいるのは雪菜だから。みんなの名前聞きたいなー」


 というわけでぼそぼそとした自己紹介が始まった。


「お、おおれは田中大輝です。3ー1にいます」

「クラスとかは話さなくて良いよー。ここで何をやりたいかが聞きたいな」

「えっっっっと。こっちでの名前は邪眼に目覚めしオルガっていいます、ふ、ふひ」

「かっこいいー! ファンタジー小説に取り入れて良い? 毎回ピンチになるオルガだけど、邪眼の力でなんとかしのぐの」

「え、あ、はい。スキルは主に戦闘系です。交易としてはスキル振り間違えたかな、あはは」

「重要物を運ぶ際は輸送船を守るためにカミカゼを受け止める役が必要ってのがあるよ」

「え、そなんすか!」

「そうよ! 毎回死んじゃうから装備はボロいんだけど、一番信頼される、頼りになる役割だよ!」

「は、はは、なんとかなるもんですね」


 さて次ー。


「私は横田みなとです。こっちの名前はジャネス・クロウ。TSしました。生理がないのは良いですけど、おちんちんいらーっすね。操縦士目指してるっす」

「おちんちんいらないよね! ハーフエルフだと生理の時期と周期がかなり遅いよ、一度なると長いらしいけど。操縦士が乗ると確か機動性やスピードなどが上昇するんだよね、交易団の花形!」

「へへ、がんばりまっす」


 横田さんは美人? 美少年か、そんなひと。でも鼻が少し崩れているかな。造形術をあとで教えよう。


 つぎー!


「甘木和人です。こっちでの名前はジャイロ・ロック。好きなアニメをもじってます。見た目通り機械族。船の修理と整備を担当しようかと」

「なんか良い感じにスキルが集まってるねー! ジャイロは操縦士もとれると良いね。ダブルで交易できれば馬鹿儲けよ」


 4人目ー!


「郷田ミクです。こっちではミカ・タナカ。スキルをバラバラに取ってしまったので何も」

「逆に何にでもなれるってことだね。受付も必須だから受付でスキルポイント溜めよう!」

「は、はい! 頑張ります!」


「そして竹中美代ことジュディ・オンスが交易士か。今船とかあるの?」


 5人は顔を合わせると、こっちへ残念そうな顔を向けて。


「それがないのよ、雪菜ちゃん」

「まずはGTWー10のレンタルから始めようってことになって、ふひ」

「購入資金もたらねーっすからね」

「ちょっと待ってね、船持ちと掛け合ってみる」


 ――ここからチャットルーム――

 ごめんちゃらすー


 今アキちゃん派閥いる? GTWー50を2隻くらい、中古ので良いから安く欲しいんだけど。

 いなくても反応よろしくね。


 ――いじょう、チャットルーム――


 反応来るまで暇なので、みんなを乗せてGRFー200で交易してた。20しか積めなくても高速移動できるから回転率が高いし、戦闘艦なので攻撃される可能性が低い。


「すげえ、操縦士のレベルがガンガン上がる」

「でしょう? ジャイロ。ジャイロも操縦士あげた方がいいと思うんだよね。2隻構成の方が回せるもん。これは最高グレードの500欲しいけどねえ。500も交易品や雑貨に実弾積めるし。でもたっかーい。120万くらいしたのを見かけたことがあるよ」

「それならフリゲートに乗り換えた方が良いかもしれないっすねー」

「雪菜ちゃん、いいの? こんなに交易の利益貰っちゃって」

「私が貰うと2割減だからね」


 ――ここから、チャットルーム――

 ごめんちゃらすー


 アキちゃん派閥

 いつもログインしてるやつにはかなわねえな。中古の50なら今有り余ってるくらいだ。カルダール紛争で需要が一気に消えた。今あそこは大規模交易旅団で交易してる

 船は二つで25万で良いぞ


 雪菜

 やっす! 5万引いてくれてるでしょ。あのー、あれよ、アレ。アレがいたから支援しないとと思って。引き渡しは私が一旦経由して、ジュディ商会ってところに引き渡すね。


 アキちゃん派閥

 あいよ。まあアレなやつらなんだ、島にはしないでおくぜ


 雪菜

 神対応だなー! あとでアキちゃんが寝言言っている動画送るわ。


 アキちゃん派閥

 それは今送ってくれないか!!


 雪菜

 しょうがないなー

 【動画添付】

 はい。


 アキちゃん派閥

 かわいすぎる……。すまんがこの条件で。俺は一旦落ちる


 雪菜

 はいはい、愛でてらっしゃい。


――ここまで、チャットルーム――


 数日してジョディ商会のガレージに2隻のGTWー50が到着する


「はい、プレゼント」


 私は満々の笑みでそう答える。


「え?GTWー50を? 2隻も?」


「うん」私は満々の笑みでそう答える。


「本当に、本当にGTWー50を2隻もくれるのですか!? 雪菜ちゃん本気!?」

「本気本気。もう船の所有権は破棄してあるから盗まれないうちに所有権を取得しなー」

「う、うん」


 みよちゃんは慣れない手つきで所有権関連のコマンドを操作していた。


「出来た……本当にありがとう……!」

「少ないけど船出金」

 といって電子カードから10万ドルエンを差し出す。


「こんなに受け取れないよ!」

「この程度ならすぐ手に入るから大丈夫大丈夫!」


 そして10万ドルエンが彼女の手に渡る。


「今はアマール産の木材の供給が追いついたから5000ドル円で仕入れて7000ドルエンで売り払うくらいしか利益でないと思うけど、それでも一気に稼げるようになるでしょう? 交易は規模、規模なのよ」


 彼女はこちらに笑顔を向ける、涙を流しながら。


「ありがと、ほんとに。お金貯まったら送金するから!」

「あ、それはして。バックに私が付いてるって言って良いから。これは島の獲得という投資なのよ、投資」

「そ、そうなんだ、わかった、頑張るね!」

「頑張ってね!」


 ぐっと握手とハグをしてその場を離れる。認識コードは貰ったから、メール機能が復活すれば金銭のやりとりが出来る。


 ふふふ、お金なくなったけど、リアル友人が! リアル友人が手に入ったぞぉぉぉ!!


 やったー!! ばんざいばんざい!!

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