第3話 サルベージ

 ジダンにさくっと到着。途中賊もいたけどコルベットクラスは相手にしていないようで助かった。

 ジダンの艦船入出港に降り立……つ前に傭兵の解雇だ、急いで4人乗りドローンに乗り換え傭兵の館へ。


「絶対戻ってくるから、待っててね」

「12年くらい待っていても大丈夫だぞ。俺たちの寿命は長く作られてるからな」

「ありがと。じゃ、またね」

「雪菜さん、ご幸運を」


 解雇完了。すぐにコルベットに戻る。4人乗りドローンは本当小回りがきく。

 艦船入出港に到着し、下船。係員に「ドエクサの交易旅団に回しといて」と伝える。ぎょっとしていたがまあ大丈夫だろう。


 以前どざぁるちゃんから貰ったフード付きコートが入っているARチップ洋服に着替え、顔を隠しながらドエグサの交易旅団の本店へ入る。アキちゃんはARチップを解除すれば逆にわからんだろう。

 あと6時間しかない。


「こんにちは。雪菜です」


 受付店員の目が若干変わる。しかし笑顔は崩さずに。


「お待ちしておりました。お連れいたしますね」


 訓練されているなーと思いつつ案内を受けてドエグサの交易旅団からカザエフ海賊団の本部に直行する。出会った隊員達から敬礼を受けるので、私へのなんらかの通達が出てるか、アキちゃんには敬礼をしろって通達が出てるな。後者かな。


 さて着いて歩いて行くと、でかい扉の前に出る。釘とかガシガシ刺さっていてギャングっぽい。海賊じゃないのか……?


「大将、ターゲットをお連れいたしました」

「入れ」


 シュイーンと横に開くドア。


 中にはディンゴ、いや、アキちゃん派閥がでかい椅子にででーんと座っていた。ギャングっぽい……。


「待ってたぞ」

「待たせたわね。あと5時間でサルベージが始まるわ。どういう感じで意識を引っ張るのかな」

「普通なら強制ログアウトだが、バグってるからな」

「ドキドキします」

「アキちゃんなら俺が守る」


 そしてサルベージが始まった。


 ギュイっと意識が引っ張られる感じがする。魂の方向へと意識がぐんぐん引っ張られている。それがだんだん強くなって……!!


「まずい、意識が全部取られない」

「大丈夫なのか!?」

「わか……あぁ……」


「ブチッ」と言う音とともに人格が分断された。そう感じている。


「私のほとんどを持って行って、主人格だけこっちにのこったみたい」

「さるべーじは……」

「そうだねあきちゃん、あっちではせいこう、こっちではしっぱいかな」


「意識洗浄しよう、うちらじゃねえがヤクをやる連中もいるからな、そいつらに洗浄を売るために救命ドックはここに設置してある」


 アキちゃん派閥に担がれ救命ドックに入れられる。


 ブイーンと洗浄されて、ぐだぐだだった意識が復活する。


「意識は戻ったけど、残酷な真実が見えてしまったわ。全てのスキルがなくなった。ステータスも多分農民のそれね。ハーフエルフだったんだけど、耳が一般人のそれでしょう? 」

「髪の毛も黒だ。アキちゃんいる限りお前もここにいられるから心配するな」





 バグ潰しも出来ない現状、やれるのは待つことだけだ。

 幸い私の特徴であるスタイルは平均的になったし、顔も普通よりになった。

 私が私と見られないので、雇用して一般事務を扱わせて貰った。電子的なことはほとんど出来ないのでロートルなことをだけどね。

 榊雪菜も家事するけどさあ、電池交換や窓拭き、こういうのは機械や執事任せだったから新鮮新鮮。

 お給料はほぼ出ませんけど住ませて頂いているだけでありがたいです。


 一ヶ月ほど経ち、1回目のヨネダからの通信が届いた。


「中身空っぽな榊雪菜ができあがったらしい」

「そりゃ傑作だな。こっちからも情報あるぞ。榊雪菜がダイブして意識不明だとさ。そういや今榊雪菜って言ったよな」

「あ」

「緩いやつなんだなあ榊雪菜って。事務員も良いけど小説書いてくれよ、そっちの方が有意義だろ」


 お前ものんびりしてるなあと思いつつご厚意に甘えて小説を執筆することに。古ーい時代の電子入力機を発見したのでそれでパチパチ。「豪傑ディンゴの大冒険」「遙か時は夢の中」「カルダール戦記」などを書いてどれも大ヒット。かくまって貰っている身なのでちょっとだけしかお金は貰ってないけど、やっぱ書くのって楽しいなあ。


「3冊書いて1年経ったからあっちでは1週間たったんだけど、2回目の通信が来た。TSSが意識加速の倍率を下げるそうだね。半分にするって。1週間が半年か」

「榊雪菜関連は何かないのか?」

「倍率下げるまでニューロン洗浄して、下げたあと再度ダイブさせるって。これは極秘情報」

 情報は極秘なほどよく漏れる。などとうそぶかれながらも短編「腐った牛乳をしみこませたぞうきん」を書き上げ、ダイブに備える日に。


「私の認識コードが1234AA5678B01Cになってるから名前だけしか私を捕まえる座標がないんだよね。結合うまくいくかな」

「行きますよ、なんたってここまでディンゴと一緒にいる拷問に耐えてきたアキちゃんがいるんですから!!」

「ご、拷問とか悲しいこと言わないでおくれ……」


 フフっと笑い、椅子に座って心を研ぎ澄ませ、私が降り立つのを待ち構える。

 ここだよ、、ここだよ、私の分身。


「ご主人様、オーバードライブするときの感覚ですよ」

「あっちが開始するまでもうすぐだ」


 精神をログイン画面直前まで戻し、この世界にダイブしてくる精神をつぶさに見つめる。


 こい


 こい……


 こい!


 いた!!


 見つけた! 私の旧来の認識コードを探したのが正解だった! こっちだよ、おいで、おいで!

 オーバードライブの要領でこっちから魂……ではなく、ダイブしている私に接近する。あっちも気がついたようだ。立ち姿まるっきり現実の私だな。175センチィ……。

 一瞬お互いが空中で静止して、そして抱き合う。


「お帰り、私」

「行ってきます、私」




 床に転がっている私がいる。

 不安そうに私を見つめる2人がいる。私はグッドサインをする。抱き合う2人。え、まじ?

 直後に思い切り突き飛ばして「今のなし! 意識洗浄させてください!」と泣き叫ぶきつね娘。


「ほれはわらしがさりね」


 2人は見合うと、笑顔で私に近づいてきた。




 海賊ディンゴにゃあ笑顔は似合わねえぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る