第5話 ウンディーネ戦!

「もうすこしですっ」

「街から2キロない感じ? 近場に潜んでたんだね」

「すぐそばに川が流れているのでしょう。ドティルティ近郊は水が豊富なので穀物地帯となっているんです」

「しかしここまでぬかるんでると本当に俺は戦闘機動が出来ねえな……」


 ぐちゃぐちゃにぬかるんでる足下を何度か踏んでため息をつくアルダスさん。


「今回はお嬢様の壁ですので」

「俺防御型じゃねえよう」

「お嬢様よりは丈夫でしょう」


 なんてことを話しながら進んでいくと。


「はっ!? 赤黒い水のジャベリン、来ます!」

「狙い私だ! マジックコート! 横っ飛び!」


 すでに捕捉されていたのか先制攻撃が飛んできた!

 でっけえジャベリンだこと!

 すんでの所で私は回避。

 でもまだ距離があるところから放たれたから避けられたようなものだ。

 これを回避し受け流しながら接近しないといけない。


「今のは貯めた一撃なので遅いけど威力が大きいのでしょう、あそこまでの塊はそうそう生み出せません。アルダスに「空間障壁」を展開」

「俺がダメージ受けたらベリケア頼むぜぇ」

「おじさん速く歩いて!」

「お嬢におじさんなんて言われたら俺もうだめだぁ」


 いろいろと言われているアルダスさんだが、実際はこれくらいぬかるみに足を取られているのが正しいのだ。私たちが恵まれている。


 何回か私を狙い、避けられたりマジックコートの前に完封されたのをみてか、ウンディーネは目標を変えた。ルウラさんだ。


「ここ」

「こっち」

「これは外れる」


 ルウラさんは事前察知が上手でささっとジャベリンを避けていた。

 これジャベリンが遅いね。最初の頃ビビった「魔法の速度」より遙かに遅い。


「見えてないからでしょうね」

「視認できたときが本当の勝負開始ってわけですか」


 そしてそんなことを言ってから少し走った結果。


「丘の下にバグを感じます!」

「下にいたとは。魔法は視認できたときからが本番です。お互いのマジックコーティングを剥がし合う、ある意味体力勝負!」


 少し下をのぞくと見えた。赤黒いウンディーネが。

 と、同時に、3連発のアイスシャードを額に浴びた。

 無傷だけど、めちゃくちゃ反応速度が速い。


「これアルダスさん前に出しちゃ駄目だ、魔法の餌食になる!」

「でも周辺にはリビングデッドがいます、そいつらを倒してもらいます! 」

「うおおおおお!」


 突貫する二人。アキちゃんも二人に遅れじと前進する!

 私も少し独自行動を取るけど、行こう!


 ザザーッっと崖を駆け下り、目の前にウンディーネを見据える。やはり綺麗だあ……。

 マシンガンのようにアイスシャードを放ってくる。

 しかし傷を負った者はいない。牽制かな。

 こちらも攻撃を開始する。

 アルダスさんが前に走り、その後ろをアキちゃんが追随する。その後ろのルウラさん。

 私はアルダスさんとアキちゃんの間位を個人で走っている。効果的な遠距離が届くのは私だけだからね。

 ルウラさんがよってくるリビングデッドを処理し、私が前に距離を詰めながらショットガンで雷属性の弾をウンディーネに撃ち込む。

 ショットガンは単発なのでさほどダメージにはなっていないが、当たるたびにウンディーネが展開する水壁ウォーターウォールを破壊し、ウンディーネの動きを阻害する。地味にいらだつだろう。

 実際、ウンディーネが狙っているのは私で、左右に動いたりする私と違い、まっすぐ前進している本体と距離が縮んでいることに、あまり気がついていないように思える。もうすぐおおよそ30メートルを切るだろう。

 ショットガンもオーバードライブしたときに使いたいし、次の行動に移る。


「これを食らえぇ!」


 ヒューンッ

 ベチャッ


「ふふ、動きが鈍くなるだろう」


 当てたのは粘性オイル。グレネード屋で買っていたのだ、高いから中身だけ。

 それを水風船のゴムに、冒険者生活魔法その最大レベルの魔法「液体満タンで!フィル・ザ・ボトル・オブ・アニィリキッド」で瞬時に詰め込み――風船は勝手に適度な大きさまで膨れてくれる――、ぶん投げているのだ。

 この距離ならまあ、あたるっちゃ当たるし、ちゃんと当たればオイルをウンディーネが飲み込み可燃性の度合いが高くなる。周辺に落ちても粘性のオイルが散らばる――しかも雨によってさらに拡散する!――ので動きにくくなる。

 とにかく投げた者勝ちなオイルなのだ。


 当たれ当たれ! ひゃっはっは!


 10発ほど投げた時点でオイル切れ。でもあのあたりは相当なオイルが地面とウンディーネにしみこんでいるだろう。


「あと20メートル!」

「さすがおじさんのターゲットスキル! 正確な距離がわかるって凄いですね!」

「おじさんって言わないでくれよお嬢ー」


 あと20メートル!


「ルウラさん、炎!」

「あ、なるほど! 威力は考えなくて良い、ファイアアロー!」


 私は火炎瓶を投げる。2本しかないが十分だろう。


 バァン


 一瞬酸素が薄くなったかと思った。さすがにそれはないだろうが、それくらい迫力のある爆発がウンディーネを中心におこった。


「アアアアアアア」


 ウンディーネの叫び声が聞こえる。かなりのダメージとみて良いな。


「いけるか!?」

「おじさん、バグ精霊がここでやられるほど雑魚じゃないよー」

「そっかあ」


 残念がるアルダスさんの体に、一本の槍が繰り出され、それは見事にアルダスさんに刺さった。


「ぐふ、なんだこれ、力が、吸い取られる」

「ウンディーネの腕です! 周辺の生物から血を吸い取って力にするつもりです! これがキスをするとちからをとら――」

「いいから! いくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 接触アクセスオーバードライブ!!


 私と私の魂が相対する。今回も血反吐を吐くかもしれないけどよろしくね。


「うおおおお、きたよこの瞬間! ミドケぁ……射程が足りない」


 まだあるだろ、まだあるだろ接触アクセス


【アクセス・オーバーレンジ:全ての射程距離を大幅に拡張する】


 また1ドルエンか。これを取得するしか助ける道はないね。

 取得!


 接触アクセス! オーバーレンジ!


 今度は私の腕と対面する。腕というよりかは、文字打ち機械か。本は射程距離無限だもんね。

 頼むよ、私の腕と機械ちゃん達。


 触った瞬間に頭が破裂しそうになる。に二つも触れてるんだ、体が持って行かれそうになるのも無理はない。

 精神力で押さえ込んで意識を保つ。

 まずはベリケア。


「臨時購入、ベリケアLv2ぶん! トライショットのトライアタックのベリケア!」


「うお、すげえ、上限を超えて回復してる感じがする! お嬢、時間じゃないですかい!」

「行きます!」


 私は残っていた電撃グレネードをトライショットのトライアタックでウンディーネに投げる。オーバードライブしないとこれが出来ないからね、ここまでこれは貯めていたんだ。

 6個の爆弾がウンディーネに突き刺さる。数個は水壁に防御されたが2つはウンディーネ、それも体内で炸裂した。


「アアアアアアアアアアアアアア」


 ぐしゃりと倒れるウンディーネ。

 そこにダッシュで突っ込んできたアキちゃん!」


「臨時購入、パワーエンゲージ。私の力も使って!」


 アキちゃんと私に回路が接続され、オーバードライブやオーバーレンジ、今持っているスキルなどが共有される。


「か、かんじょうがおさえきれない……。しねやおらあああぁぁぁぁ!!」


 アキちゃんはいい感じに距離を取ると!


「桜花拳法奥義、至極波動弾しきょくはどうだん!」


 巨大な波動の弾をウンディーネにぶつける。

 それは2メートル以上もあるおおきなウンディーネを飲み込むほどの大きさだった。



「アアアアア、アアア、アア、ア……ア……」




「バグったウンディーネ、討伐しました」


 5万人強の歓声が飛ぶ。


 全てが終わったあとには、大きなバグの塊と、その横に立つ120センチのおきつねメイドがいるだけだった。

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