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 十二月二十四日、午後。

 ハレノヒカフェを貸し切って、さやかの結婚式の二次会が開かれた。結婚式は昨日のうちに親戚だけで済ませていて、今日は友人ばかりを招いている。

 もちろん、小学校から一緒だった夏紀も招待されていて、ハレノヒカフェの従業員も客として招待されていた。

「おめでとう、さやかちゃん! 旦那さんもかっこいい!」

「ありがとうございます。ここも用意してもらって……。徹ちゃんも、ごめんね、忙しいのに」

「いえ、気にしないでください。僕も嬉しいんです」

 ハレノヒカフェの店内は綺麗に装飾され、テーブルには料理がたくさん並べられていた。徹二と恵子は昨日から準備をして、夏紀とハルも途中まで手伝った。

「ねぇ、夏紀、……オーナーは?」

「あ──どうしても、仕事が外せなかったんだって。準備は、手伝ってくれたんだけどね」

 あれから夏紀とハルは、時間が許す限り一緒に過ごすようになった。ピアノの練習をするのはもちろん、彼の部屋で過ごすことも増えた。ただし二人の関係は誰にも秘密なので変に長居はできないし、外でのデートももちろん出来ていない。

 ハルも二次会に招待されていて仕事の調整をしていたけれど、どうしても無理になったと夏紀は聞いていた。

 さやかへのサプライズの演奏をいつするか、夏紀は悩んでいた。ピアノは既にいつでも弾けるように準備されていたけれど、なかなかタイミングがつかめない。

「このピアノ、誰か弾くんですか?」

 招待客の一人がそんなことを聞いた。

 誰だろう、弾くのかな、飾ってるだけかな。

 そんな話がじわじわときて、「そうだ、夏紀!」と、さやかが笑顔で夏紀を見ていた。

「じ、じゃあ……」

 本当はさやかの知らない間に弾き始めるつもりだったけれど。

 夏紀はピアノの前に座り、深呼吸してから全神経を集中させた──。


 鳥肌が立つとは、こういうことなのだろうか。

 夏紀が演奏を始めるとさやかの表情が変わる、それは夏紀も想定していた。夏紀は本当にハル以外に秘密で音を消して練習していたし、ハルが周りに教えるはずもなかった。

 けれど──新郎が歌いはじめるなんて、誰が想像しただろうか。

 ヒット曲ではあったので知っている可能性は高かったけれど、彼は歌が上手い、なんてさやかからは聞いていなかった。

 夏紀は見事に、一音も間違えずに弾いた。新郎もまた、歌詞も音程も間違えずに歌いきった。こんなサプライズをされて、さやかが泣かない理由なんてない。

「俺、プロポーズのとき、これ歌ったんです」

「そうだったんですね。私も、さやかが好きだったから弾くつもりにはしてて……」

 新郎新婦を全員で囲い、改めて祝福した。

 何度目かわからない乾杯をして、夏紀はそっとカウンターに逃げた。

「夏紀さん、今のすごかったですよ。いつ練習してたんですか」

「ん? 秘密。最初は、弾けるようになる気なんかしなかったけどね」

 疲れてるだろうから特別に、と徹二は夏紀にホットミルクティを出した。寒さと緊張が一気に解けて、やっぱりハレノヒカフェが好きだと改めて思う。

「今の、オーナーにも聞かせてあげたかったなぁ」

 夏紀の隣に恵子がやってきた。夏紀が飲んでいるミルクティを見て、私もちょうだい、と徹二に頼んでいる。

「そうですよね。残念……」

「聴いてたよ、最初からずっと」

 突然現れたハルの姿に、夏紀の視界が滲んだ。

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