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「おはよう! 久しぶりだね!」
朝から街の散歩がてら、頑張って坂道を登った先でさやかは待っていた。
夏紀は少し息切れているが、さやかは笑っている。
「坂、疲れたでしょ」
「うん、もう、足クタクタ……。こっちに住むのも大変だね」
良い運動になるよ、と言いながら、さやかはカフェへと足を進めた。本当ならば一息つきたいところだが、これからカフェにいくのに今お茶を貰うわけにはいかない。
振り返ってみると眼下には、まるで模型のような街が広がっていた。幼い頃に遊んだ公園、小学校に中学校、距離は離れているはずなのに、とても小さな世界に見えた。
「ほんとに良い景色……さやかの家からも、見えるの?」
「うーん……隣の家が邪魔になって、海はそんなに見えないけどね。でも、ハレノヒカフェのデッキテラスは、本当に街が見渡せる、って噂だよ」
さやかの家から程なく、目的地である『ハレノヒカフェ』が見えた。もちろん造りはプロヴァンス風で、温かみのある色。店内の様子は外からはわからないけれど、きっと優しい女性が経営してるんだろうな、と夏紀は思った。
階段をすこし上がった先に店の入り口はあった。
街に面している壁は全面ガラス張りで、テーブルは隣との間隔が広めに取られていた。間には何もないけれど、他の視線はほとんど気にならない。よくある都会のチェーン店とはまるで違う、家のような雰囲気だ。
夏紀とさやかは店内席かテラス席か悩み、最初だから、と店内を選んだ。すぐに女性の店員がやってきて、二人から注文をとった。
「まさか夏紀がここに住むなんて、思わなかったなぁ」
「うん、私も。戻ってきてもここじゃないと思ってたよ」
プロヴァンスに住んでいる人からは、坂が辛い以外は何の不満も聞いたことがない。
けれど普通の日本の町並みにフランスの景色が突如現れて、しかも家の向きが他とは違うから周りの人たちは最初、怪訝な顔をした。
日本じゃない。
田舎なのに。
すごく浮いてる。
夏紀も最初はそう思っていた──けれど。
実際に足を運んでみると、特に違和感はなかった。街も家も可愛いし、景色がすごく綺麗で、海の青も街によく映えた。そして実際に引っ越してみて、不満はなかった。
「お待たせいたしました」
声のほうを見ると、注文を取りに来た女性店員が二人に料理を運んで来ていた。二人とも同じランチプレートを頼み、食後にアイスティをお願いしている。
夏紀とさやかは久々に会ったけれど、ときどきメールはしていたせいか、会話が途切れることはなかった。お互いの仕事のことや同級生の会話をしているうちに、いつしかお腹いっぱいになった。
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