恋、いつまで・・・

M.Kaye

プロローグ

『う〜ん…一体どこで何を間違えたんだろう…?』


 この服なのかゴミなのかの区別が出来そうに無い散らかりきった1LDKの部屋にぽそっと響いた私の声。


 一様今日は私、石川亜里沙が30歳になっためでたい誕生日なので部屋を暗くしてリビングのセンターテーブルには蝋燭を灯したケーキを置いている。別に祝ってくれる人がいない訳ではない。本当は実家で両親と親戚の人たちも呼んで親は私がこの歳になっても盛大に祝いたがっていた。何人かいる友人からの誘いもいくつかあった。でもこの歳になって何にも進んでない自分が嫌で祝う気にもなれなく今私はお気に入りのソファーで寝そべっている。人から見れば私はごく普通の人生を歩んでいるのだろう。普通の会社員で、普通に収入もあり貯金もあり、友人関係も良く、両親には愛され、普通に暮らせている。普通な人生というかこれは普通の幸せな人生なのだろう。それに何の不満があるんだと良く言われるけど、不満ではないけど思い描いていた自分の人生とはあまりに違う。足りない物はなさそうで空っぽに感じる自分。全部ヒロに持ってかれたんだ。そう、藍田弘樹あいだひろき-私が最初で最後に愛する人だと思った人。もう別れて6年、でもずっと忘れられない。最初は別れても友達でいようって話して一緒に過ごす事もあった。でもそのせいで多分私は別れても縁を戻せるんじゃないかと心のどこかで思っていたのだと思う。それが苦しくて自分から離れたのに…


『思い出しても意味ない。もう忘れようよ!』


 この言葉をもう何回言っただろうか?と思う自分もいる。別にヒロの後も彼氏ができなかった訳でもない。好きだと人もできて、付き合う事もあった。でも最後の最後でヒロを思い出すとダメになる。だから本当に今日で終わらせないと。このまま引きずってても何も変わらない。もう30歳だし自分の気持ちを整理して自分の幸せを受け止めよう。


『今年こそは全部忘れて、前を向いて幸せになりますように!』


 そんな思いを込めて30歳のケーキの蝋燭の火にゆっくり息を吹きかけ消した。


『まずはこの部屋だよね?掃除、掃除。電気付けないと流石に暗い。』


 ソファーから立ち上がろうとした時だった。スマホがピコッと光ったのだ。


『誕生日おめでとう!時間あったら一緒に祝おう、里穂も一緒に誘ってさ。連絡待ってるぞ。-ヒロ』


 一瞬時間が止まったかと思った。4年間ずっと話す事ももちろん会う事もなかったのに、私はこの何も無かったかのような, 変わらないヒロの接し方、この仲良しっぽいメッセージに戸惑った。なんというタイミング。忘れようと決心が着いた時なのに。


『あ〜も〜わっかんない〜どうすれば良い?あの時はこんな事なかったのに…』


 これは神様の意地悪なの?それとも忘れてはダメというお告げ?たった一つのメッセージで私の想いは揺らいでしまった。

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