笛太鼓の鳴る家

骨皮ガリオ

笛太鼓が鳴る家

ドンドコ、ドンドコ、プェエエ、ドンドコ、ドンドコ、プェエエ

草木も眠る丑三つ時、不気味にも部屋中に大きく鳴り響く笛太鼓の音。

神楽舞などに使われそうな音色が不安定にも心揺さぶってくる。

はっきり言おう。凄くうざい。


最寄りの駅から徒歩五分の凄く立地の良い格安物件に引っ越して早や一週間。

一日目こそはお隣さんうるさいなぁ位にしか思っていなかったが、

三日後に音の発生源が家の襖の奥ということが分かり

「なんだお前、人さまの家に無断入っている上に騒いでんだゴルァ」

とブチ切れて襖の中を捜索したが肝心の姿形が見つからず結局泣き寝入りに終わったが、

この日の晩から襖の中ではなく、寝室中に笛太鼓が響き渡るようになった。

そこまでなら許そう、どんなに煩くとも笛太鼓の音自体は不快な物ではないし、

寧ろ落ち込んでいる日とかには励ましてくれるような音色を奏でてくれている気もしなくもない。

だけどねぇ、なんでいっつも寝ている時にしかどんちゃん騒ぎしてんすかね、

お陰でこちとら寝不足で昼夜逆転して自律神経めちゃくちゃだ。

許せねぇ、ほんっとに許せねぇ。

何が腹立つってネットで検索した除霊方や本業の人に来てもらったりしても音が鳴りやまないところだ。

昨日、さすがに堪忍袋の緒が切れかけ思いっきり床ドンしてやったら負けじと音量を上げて来やがった。

その時は思わず怒鳴り声をまき散らし一通り暴れた後寝たのだけれども、

今日の俺は一味違う。今日の俺は布団を被っているがその実全裸だ。

やってやる。数年前に二チャンネルで流行った最強の除霊方をやってやるのだ。

そう覚悟を決めてもう何回目かの笛が鳴ったタイミングで勢いよく布団から離脱し、

笛太鼓に合わせて両掌で己のケツを思いっきり叩きつける。

「びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!」

笛太鼓の音に合わせて

「びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!」

声が裏返る程に

「びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!」

もう何度叫んだか数えられない程に繰り返し、気が付けば一時間が過ぎていた。

己の両掌を止め、全裸でただ一人、寝室の真ん中でふと気が付く。

笛太鼓の音がピッタリと鳴り止んでいた。

やった、成し遂げたのだ。

長く苦しい戦いであった。


そう、息も絶え絶えでケツも真っ赤な状態で浸る達成感に酔いしれていると、

玄関の方から女性の甲高い叫び声が響き渡る。

嫌な予感がした。

けれども見ないといけないのだろう。

己が首が出来の悪い人形の様にギッギッギッと玄関の方を見る。

そこには綺麗で優しかったお隣さんが怯えた表情をしながら此方を見つめていた。

その後ろをよく見ると警備服を着た男性が二人、驚いた表情でお隣さんを後ろで挟むように立っていた。


許せねぇ、あぁ本当に許せねぇ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

笛太鼓の鳴る家 骨皮ガリオ @tumetogibotan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る