『一人一つ授けられる固有能力で俺は睡眠耐性Lv10(MAX)』で不眠不休の異世界生活のようです!

松井 ヨミ

プロローグ・死亡

「お疲れ様でした、お先に失礼します」


 男はいつもと同じ様に上司に挨拶していた。

 何ら変わらない日常。


藤原ふじわらお前今日も早いな、誰か家で待ってるってか?」


「そんなんじゃ無いですよ、佐々木部長」


「そうか、まぁ気ぃつけてかれな、最近物騒だから」


「はい、有り難うございます。お疲れ様でした」


 軽く頭を下げその場を離れる男の名前は藤原ふじわら 雪夜ゆきや

 大学卒業後、行きたいアニメ関連の会社に採用され、順調に社会経験を積んでいる極々普通の二十四歳サラリーマンだ。


 見た目は良くも悪くも普通。

 これといった特技も無く器用貧乏。

 帰ったらアニメに小説やゲームなど最近の若者らしい事をするだけだ、変わってると言えば一点のみ。それは自宅で稼ぐ為にゲーム配信にイラストを描くなど、それらを密かやってるぐらいだった。


 そして今日も男は当たり前の様に帰路に就いていた。


 乗換なしで帰れる路線。

 僅か二十分足らずで着いてしまう都内は利便性が良いが、家賃を考えて絞り込んだ物件は最高の物件という訳ではなく。通勤時間を優先した生活をする為の、必要最低限の物件に帰るのだ。


 いつもの様に電車に乗車し周りを見渡しても空席は無く、目的地まで開かない扉に寄り掛かり到着を待つ。


『今日も混んでるなぁ、まぁ帰宅時間は仕方ないか。帰ったら風呂入ってご飯食べながらアニメでも見るか』


 スマホには触らず両手で手摺を掴む、藤原の行動は、常に盗撮だの痴漢だのと冤罪を少しでも、かけられない為にはどうしたら良いかと考えた結果だった。


 そして急行の電車が目的地に向けて動き出す。


ガタガタッ

ガタンガタン..

 

 最近出てきたウイルスが蔓延してても多少は聞こえる話し声、それ以外に聞こえて来る音は殆ど無く、誰かが動く微かな衣擦れや靴の音に電車の音ぐらいだ。


 電車に揺られながら、夜の街を見ながら過ごす。


 何ら変わらない日々。



「しねぇえええええええええッ」


 電車内が一瞬にして静まり返り、声のした方に視線が一手に集まり、藤原も自然と声の方を向いていた。


 全員の視線が捉えたのは血を垂らしながら倒れる男性と、包丁を持った血塗れの男性、そして近くに居た女性の半身も血で赤く染まる、そんな光景が目に映っていた。


「きゃぁああああ!!!」

「逃げろッぉおお!」

 

 一人の女性が叫び、一人の男性の大声が引き金となり、車両内の乗客が一瞬にしてパニック状態に陥っていた。


 我先にと違う車両に移動しようとする悲惨な光景が生まれ、力の無い子供や高齢者が次々に押し倒され、狭い貫通扉にはサラリーマンや無理やり入ろうとする女性で溢れ返り塞がっていた。


「お前も死ねぇええッ」


 声がして再度向くと、近くに立っていた女性の胸に包丁が突き刺さり、男性が包丁を抜いた途端にドボドボと大量の血が溢れ、車両の床を赤く染め始めていた。


 そんな現場をドアに凭れ見ていた藤原は、人殺しの男と目が合ってしまった。


「何見てんだよッ!殺ぉすッ」


『最悪だ、見てただけだろ。それで問題あるなら人目の無い所でしてくれよ』


 血まみれの包丁を片手に近づいて来、真っ直ぐ来ると思っていた男の方向は少しズレており、藤原は咄嗟に反対側の乗車位置に目を向けると、スーツを着た女性が両膝を床に着け座り込んでいた。


「何やってるんだよっ逃げて」


 急いで声をかけるが届いておらず、女性は只々殺人者を見て固まり、その間も進んで男は既に包丁を振り上げ、女性に斬り掛かろうとしていた。


「おいッ」


 出せる限りの大声で声を出した藤原が前に飛び込み、声に反応して気を取られた男に身体を当てた事で、振り下ろされた包丁が女性に当たる前に、男をドアに突き飛ばし衝突させていた。


 男の頭がドアのガラス部分に当たり男が頭から血を流す。


『今だっ』


 藤原が女性の二の腕を思いっきり引っ張り、男から引き離していた。


「ぃッ―」

「あんた早く移動しろ」

「ぁ、はいっ‥‥」


『とは言えまだ貫通扉は通れねぇ、どうするこのまま―――』


「死ねええッ」


 柔い物を貫く音と頭の中で何か裂ける様な音が微かに聞こえ、それを認識した頃には近づいていた犯人に刺された後で、藤原は状況を理解できてなかった。

 と言うより痛覚が機能せず頭が真っ白なまま、自分の胸に刺さる包丁と、そこから出てくる真っ赤な血が、震える瞳に映っているだけだった。

 

『俺‥刺されてるのか‥‥』


 数秒して僅かに思考が現状を理解するも。

その途端に身体から力が抜け、脱力感に襲われた藤原はそのまま倒れ込んでいた。


 倒れ力の入らない身体で、頭を必死に動かし貫通扉に目を向けた。

 そして逃した女性が最後尾で隣の車両に移り、サラリーマン達がドアを叩きつける様に閉めた所で、藤原の瞼はゆっくりと閉じていた。




 







 

 

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