第18話 僕が住む鎌倉

 夏休みは横須賀のネコの家で過ごすようになった。それまで以上に僕達三人は一緒に過ごす時間が多くなった。


 僕は、お姫さま気取りの美宇とネコにせかされて、書斎の縁側に面した庭に毎日のように、水遊びをするために子供用ビニールプールに水を張ったり、物干し竿と軒の間にシーツを張って、日よけテントのようにしたりすることが日課となった。


 時々、母屋から咲枝ママが飲み物や食べ物を運んでくる以外には、誰にも干渉されない僕達の世界になった。美宇にとっては今までに経験したことのない、特別な楽しい夏休みだった。


 書斎の本は読み放題だった。


 美宇が遊び疲れて寝てしまうと、ウッチャンズの部屋や縁側で涼みながら、ネコと二人で話す事も多くなった。女子二人に雑用係を押し付けられる、多少、面倒な事もあったが、僕もネコの元を訪れるのを楽しみにするようになった。なによりネコは同級生の女子達とは違っていた。暴力や人を見下した命令形の口調など、僕が不快になる言動がなかったのだ。


 今日は、美宇がウッチャンズの部屋のベッドでお昼寝を始めた。僕は、書斎のネコのベッドで本を読んでいた。海風が心地よい。昼を過ぎると庭の大きな木で縁側は日影が出来る。縁側でゴロゴロしていたネコが、ダラダラと起き上がると、氷を入れたジュースを持って僕の側に座って、突然聞いた。


「ねえ、韓国は遠いの?」

「遠い?遠いな。海の向こうだよ」

「海の向こう?毎日帰れるの?」

「地図で、調べてみなよ」


 ネコは大きな本棚の上に、器用によじ登り、世界地図を出して僕の前に置いた。僕は、それを広げると韓国と日本を指さした。

「へえ~」と地図を覗き込んで来る。

「今は、鎌倉の叔父さん宅にいるんだ」


「鎌倉?」

「鎌倉はここ」と地図の横須賀線の鎌倉駅を指した。僕とネコは顔がくっつきそうなほど近づきながら話し込んだ。

「鎌倉ってどんなところ?」ネコは僕に聞いた。


 ネコは、たぶん一度も行った事がないのだろう。鎌倉自体は海も山も身近にある。潮風の風景と緑のお寺や神社。それに古い歴史のあるお店と、新しいお洒落なお店と共存している不思議な街だ。


「お寺と武士と海と山があるよ」

「なにそれ?」

「僕は雪の鎌倉が好きだ」

「雪?」

「観光客が少ないし、しんしんとお寺の屋根に雪が積もるのが綺麗だよ」


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