第2話 異世界一文なし生活、開始!(女神がとても可哀そうだと思った)
光が晴れ、俺は目を開けた。
「お、おぉー」
日本じゃ多分見ることない中世みたいな建物が並び立つ光景。
服装も民族衣装みたいなものを着ていたり、剣や杖を装備している人がいたりと、本当に目新しい光景が広がっていた。
「マジで異世界に来たんだなー、俺」
「はい、私のせいで本当にすみませんでした」
隣にさっきまで話していた女性の声が聞こえた。
そうフェアナだ。
死んだ目をしているが、間違いなくフェアナだった。
「本当、どうして勝手に起動したんでしょうね。いえ、大体予想がつきます。大方整備にどこか不備でもあったんでしょう。えぇ、私のせいです。私が我がまま言わなければ良かったんですよ。今日の運勢も悪かったし、大体どうして――」
「おーい、一旦落ち着いてくれー」
ブラックモード(今命名した)になったフェアナを、俺は揺らして正気に戻させる。
誰もいないからなのか、平気で愚痴を溢す始末だ。
神の仕事の闇深さは、こんな美少女にまで心を蝕むものなのか。
いっそフェアナこそ転生して最高の人生を送らせえるべきなんじゃないかとさえ思った。
ちなみに、神でも運勢をするのかという話は気にしないことにする。
追求するだけ面倒だし。
正直、起こったことに何言っても仕方ない。
わざとには思えないし、今の言っていることが嘘だと思わない。
こういう時はポジティブに考えるべきだ。
俺の得意分野だし、こうやって今まで日本で生きて来たんだから、異世界でもやってけるだろう……多分。
「はぁ、本当にすみません。本当ならあなたに何か渡せたはずなのに……」
「さっきは叫んだけど、もう良いよ。言っても仕方ないことだし。それに、フェアナ、さんは女神なんでしょう? だったら、この世界のこと色々教えてくれよ」
「……ありがとうございます。後、私に敬語は不要です。少なくともこれからしばらくの間は一緒にいることになるんですから。さんもいりませんよ」
「そうか。じゃあ、俺もアユムで良いよ。これからよろしくな、フェアナ」
「はい、こちらこそ」
仲間が一人できた、それも女神だ。
これは良いことだ……若干病んでる気もするが、とにかく良かった良かった。
「で、俺はこれからどうすれば良いんだ。いきなり街中に放り出されてもどうしようもないんだけど。それにお金もないし」
異世界に来て最初に行き当たる状況だと思う。
間違いなく、確信持って言える。
地球の紙幣や硬貨なんて使える訳がない。
そんな俺の不安を他所に、待ってましたとばかりにフェアナは何かが詰まった小袋を渡して来る。
ジャラジャラ、という音が聞こえてくるあたり、多分硬貨だろう。
「貰って良いのか?」
「ええ、これもほんのお詫びです。前に一度下界したことがありますから。それに――」
一息吐いて、フェアナは自慢気に俺に言い放った。
「――こう見えて、知識を司る女神ですから。どうすれば安全か、何が価値のあるものはどれか、そんな様々のことを知っていますから。困った時には気兼ねなく聞いて下さいね!」
おお、それは凄いな。
それなら変に凄い能力貰うよりも絶対良いじゃん。
「じゃあ早速、この世界のお金事情を頼む」
「任せて下さい! えっと、今の世界はオリヴィー
「――ん?」
「えっ?」
俺は袋を開けて中身を見る。
少なくとも紙らしきものはない。
日本で見るような硬貨がたくさん入っていた。
しかも色違いだから、きっと五百円とか百円みたいに分けているんだろう。
うん、そこじゃないな。
「あれ、今何て言った? オリヴィー、何?」
「オリヴィー、紙幣、です」
「……硬貨しかないんだが?」
俺達の間に静寂が来る。
無言で俺はフェアナを見つめていると、徐々に顔の雲行きが怪しくなっていく。
「一応聞くけど、その下界したのって何年前の話?」
「……二百年前。どうやらその後に、色々と変わったみたいですね……は、ははー」
やばい、またブラックモードになりかけてる。
「ま、まぁ、ほら! 昔の硬貨が売れたりするかもしれないだろ? そしたら今よりも増えるかもだろ?」
「いえ、ここら辺じゃ大した額になりませんよ。それこそ、金貨でもなければ……」
「そ、そうなの、か」
「はぁ……アユムさん、ロープありますか?」
「仮にあったとしても俺はうんと言わないし渡さないからな」
やばいよこの女神、あまりの現実に耐えきれずに自■しようとしてやがった。
とりあえずお金の確保と、フェアナをまた元に戻さないと。
そう思っていると、何か周囲から変な視線を感じた。
美少女なフェアナの方かと思ったが、どうにも違う。
しかも通る人達の視線は、俺と言うよりは、俺の来ている服装だった。
ちなみにだが、俺の今の服装は学校の制服だ。
他の持ち物はなかったけど、服だけはそのままの状態だった。
……あっ、待てよ、もしかして。
「フェアナ、もしかして俺の制服って傍から見たら高価か?」
「……そうみたいですね。製法やら素材が良いですから、いっそ全身売って買い替えれば、この世界の住人に見えると思いますよ」
「な、ならちょっと服屋に行こうぜ。それで少しはお金もなんとかなるだろ?」
「いえ、私はその近くにある鑑定屋に行って来ます。今から行く服屋は信頼できる場所らしいので、多分一人でも大丈夫です」
「お、おう、そうか」
女性とはあんま話さなかったからよく分かんないけど、こういうのは時間が経てば治るもんかもしれない。
俺は道中黒いオーラを出しながら歩くフェアナを横目に、服屋に向かった。
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