第7話 入学!

4月1日。入学式がはじまった。




この日、共学の狭き門を潜り抜けて入学した女子生徒たちは、初めて校長先生の話から入学予定の男子生徒の数を知る。そして実際に入学した男子生徒の数を知らされる。




勿論、『どうして入学予定の男子が入学しなかったのか?』という理由も知らされる。




ただここは校長の判断もあり、『男子入学生が0』の共学校長などは言葉を濁したりすることもあるという。




彼女達は過度な期待はしていない、だがもしかしたら男子を見て結婚や話すことができるかもしれない。そう期待を胸に膨らませざるを得ない新生活だ。




突きつけられる現実に彼女たちは絶望する。




そして在校生男子の数、在校生未婚女子の先輩の話。




要は『男子は特別だ、焦って勝手をするな。選択権は向こうにあるのだから、委ねるしかない』という事をきつく刻ませる場なのだ。




男子入学生3名という数字は、彼女達の心を乱すには十分な数字である。中には無理して高い共学へ入れてくれた母親へ、詫びを口にする女子生徒も出るのだ。




こうして彼女たちは教室へ戻り、一部は男子に選ばれた生徒や、教師が男子のクラスに選んだ生徒たちとに分かれていく。








**1-C**








男子生徒がいるクラスかどうかは、当日クラス発表後、入学式を経て教室へ戻るまでは分からない。




高い基準で選別されたといえ、選ばれなかった女子生徒の暴動やバック企業の妨害を回避するためにとられた措置である。




「私がこのクラスの担任を務める、久保奈美です。みなさんよろしくお願いいたします」


「よろしくお願いします」




久保先生が挨拶をすると、生徒たちも答えて頭を下げる。




「ではみなさんに……落ち着いて聞いてください。このクラスは『男子クラス』です」


「!!」




先生の言葉に教室の空気が一気に変わる。




「うそ!!」


「ダメだと思ってたのに!!」


「お母さん、男の子に会えるよ!入れてくれてありがとう!」


『静かにだまって、勉強と研究ができそうなクラストおもったら、男子クラスですって?……ハズレを引いたわ』




彼女達は嬉々として喜びを口にしたり、ガチの研究者や企業グループ跡取りの女子生徒などはわずらわしさを顔に出すなど、反応は様々だった。




「静かに、きいてください。男子生徒ですが、フェミナチ地区の出身です」


「!!」




先生の一言に、浮ついた教室の空気が一気に静まった。




フェミナチ地区、現在でも巧妙に隠蔽されており存在を撲滅させられない問題地区。ほぼ治外法権に近い、この区内において男子はまともな扱いは受けられないであろう。




心の傷を察して、彼女たちはどう接していけばいいのか悩んでしまう。




「お嫁さんが一人いますので、最初は彼女から色々と聞いていくといいかもしれません。何分特殊な生徒ですので」


「はい」




先生がそう言うと、彼女たちは返事をする。そして隣同士になった女子生徒と顔を合わせながら、話すもの。自分の研究資料にしか興味の無いもの、などなど様々な行動に分かれていく。




こういったケース、基本的な共学なら男子の顔合わせはこの日はせず。一時間目はミーティングという形でこれからの男子とのかかわり方を話し合う事が多い。




だが、彼には関係ない。




「フゥーハハハ!いつまで待たせるのだ久保テーチャーよ!」


「!?」




教室の後ろのドアが勢いよく開き、高笑いをしながら白衣を纏った男子生徒が教室へ乱入した。




一同は無言のまま、後ろを凝視して何が起きているのか、分からない様子でいた。




「ちょっと、ヤマケン!まだ呼ばれていないよぅ!」


「山田君!?」


「山田健一は世を忍ぶ仮の姿!我は世界を救う科学者、朱雀院蒼人だ!」




すがりつくように、ヤマケンを止めようとしていたのは妻である優菜だ。




ようやくヤマケンが乱入したことに気付き、理解が追いついた久保先生が慌てて彼に駆け寄り名を呼ぶも。いつもの調子でヤマケンはそう自己紹介をする。




いつの間にか教室の前までスタスタと移動して、ヤマケンは振り向きざまに手を前に突き出す。




「我が学友諸君!今日からよろしくな!」


「キャー!」


「キャー!」


「男子からよろしくだって!」


『ああ、もう!うるさい……』




女子生徒に偏見や壁を作らないヤマケンの態度は、中二病だろうと彼女達にウケた。教室は収拾がつかなくなるくらいに沸いてしまう。




「我の席は……」


『なんぞ?こっちにくる?』




ヤマケンが周りを見渡しながら、ゆっくりと中央へ歩き出した。




「白衣が似合いそうな貴様、こいつの隣を所望する!」


「ふぇえええ!?なんで!?」




研究資料を握りしめ、唐突に隣の席に指名された彼女が悲鳴に近いリアクションをする。




それも当然だ、彼女は愛想を振りまいたりもしなければ、彼に興味など見せるそぶりすらなかった。




でも、ヤマケンは彼女の隣を希望した。理解ができないよといった、リアクションは間違いなく正しかった。




「貴様、名前は?」


「つ……月島舞……」


「なるほどな、よろしくたのむぞ舞よ!」


「う!」




男子の希望は極力却下しない、いやできないのが共学の共通理念であり女子生徒の基本だ。




彼女に『静かに勉強がしたいから、離れてもらえる?』などという事は、口が裂けても言える話ではないのだ。




「優菜はわれの後ろに座るといい」


「そうするよ~……舞ちゃんだね?よろしく山田優菜です」


「え、ええ……よろしく」




顔を引きつらせて、舞が挨拶を交わす。優菜は笑顔でいるが、申し訳なさそうに両手を合わせていた。




「しかし、こうも白衣の似合いそうな知的能力が高そうなクラスにあたるとは、ツイている」


「……学校に白衣でくるとか、それほど気に入っているのね」


「フフフ、我が白衣……わが身を守る聖なる白い衣、研究者の正装ではないか」


「?」




ヤマケンは移動しない、もうあきらめた舞がよう彼を見るとなぜか白衣を着ていることに気付きそれを指摘する。するとヤマケンからは厨二が丸出しだが、意外な返答がかえってきた。




「あなたも何か研究を?」


「ああ、色々な」


「へえ……」




舞の質問にヤマケンが答えると、舞が初めてヤマケンに興味を持つ。




「ヤマケン君って呼んでいいよね!?」


「どんな研究をしてるの!?」




ヤマケンと舞のやり取りを見ていた女子生徒が、次々とヤマケンに声をかけて彼の事を知ろうとする。




「人の可能性と世界の救済をな」


「ざっくりしすぎ~」




ヤマケンの回答に、思わず彼女たちが笑う。




「いずれみんなの力を借りる事もあるかもしれん、そのときは頼むぞ」


「いいよ~」


「ふむ。貴様、名前は?」




元気よく答えた背の小さい女子生徒、ショートボブが特徴的な彼女にヤマケンが興味を持って名前を尋ねる。




「近江比奈って言うんだ、よろしくね」


「比奈か!よろしくな」




ヤマケンが比奈と握手をする。




こうなると、もはや教室内はお祭り騒ぎである。




「えっと、一時間目は山田君とみんなの理解を深めるリクリエーションとします……」




仕方なく、久保先生がそう言って予定を変更して対応した。




共学では男子と女子の関係を深める事ならば、授業を変更するなど当たり前に行われる。これもまた当然の対応なのだ。




「じゃあ!みなの特異な科目や、俺に教えてくれそうな専門分野とか聞いてこうかな!」




ヤマケンが楽しそうにそう言って、彼女達を見ていた。

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