第2話 雲嵐、後宮を歩く
紫微星城内――。
「おおおおい、陛下。なんだ⁉ なっげー廊下だな。同じような建物だから、おらは帰り道、執務室に戻れる気がしねぇんだが……」
雲嵐は狼狽える。
「ああ、慣れれば大丈夫だ。オレは森の方が迷いそうだけどね」
「おうおういってくれるじゃねーか。森の方が簡単だぜ」
門をくぐるとそこに大きな池が見える。橋を渡って竜王殿にやってきた。小舟で移動しないといけない位の大きな池には亀や兎などいた。池の周りは自然の森の中にいるような原風景が広がる。
「雲嵐はオレの妻に一、二度、会ったことあるよな?」
「いや、李黄家の広い会議室だったし、
しかし、こんな美貌の皇帝が夢中になるほどの妃とは、いったいどんな色気で天籟殿を虜にしているのか――興味があった。
「おーい
陛下の顔がへにゃりと緩み、嬉しそうに声をかけると鷹小屋から出てきた月妃は、つぶらな瞳で、素朴な感じだったが、同じような野性的な匂いがする。
(天籟陛下のほうがよっぽど美人だな……)などと考えながら、拱手をすると、横にはべっぴんな女人がいた。
「うぉぉぉお。なんだ、この超絶綺麗な女人は‼ 天女か? 天女なんだろう。見たことねぇくらい美人だぜぇ~~ぴゅう!」
「ええ。雲嵐さん、お目が高い! こちらはわたしの侍女の
月鈴が自慢げに紹介する。
「はじめまして、月妃付き侍女の詩夏です」
「侍女ぉ? 一目ぼれした。おらの嫁にきてくれっ!」
「……ふざけているのですかこの野蛮な御方は⁉ ここは後宮ですよ! そのような発言は不敬罪で捕まりますわ!!」
詩夏はキッと睨みつける。
「はぁ。おっかねぇな。山の民では誉め言葉だったんだが~」
「え、えーと。わたしが言うのもなんですが、一応、後宮で働く女人はすべて〈帝の女〉なのですよ」
怒り心頭の詩夏に代わって、月鈴が説明した。
「なんだ。人妻だったかー。わりぃ」
「月妃さまの前で失礼な。わたくしは人妻ではありません!」
「なんだって? 意味わかんねー」
「雲嵐、じゃあ、金宮に行こうか」
収拾がつかなくなって天籟が雲嵐の首根っこつかんで竜王殿をあとにした。
「なんで怒っているんだ。あいつはー。後宮は気の強い女ばっかりいるのか? 月妃殿下も強そうだし、怖いぞ~」
再び長い回廊を二人で歩き始めた。
「そのうち慣れるさ」
「しっかし後宮って主上の入れ食い状態だなぁ。あんな綺麗なおねーちゃん達に囲まれて生活していたのか。羨ましいぜ」
「はは……。帝なんてなるものではないよ。絶えずプレッシャーとの闘いだ。それに頭の固い宰相たちを説得しながら改革を進めるのは大変だ」
天籟は額に手をおき深いため息をつく。
「……」
「それに、国のために好きでもないのに、子を成すだけの相手なんて御免だよ……」
「そーかー? 山の民にゃハーレム状態の長もいるぞ」
「しかし、今のところ後宮で働く侍女たちは形式上〈帝の女〉だ。オレの妻は月鈴ひとりでよいと思っている。だが、年ごろの娘たちを帝の女のままでお渡りもなく、会うこともなく年をとるなんて由々しき問題だ。ほとんどオレに会わずに仕事に従事している者は隠れて恋愛していると捧日から聞いたが……」
「あの侍女たちも後宮にずっといたら結婚できねえんだ。でもなー後宮も立派な働き口になるし。急に辞めさせられるのも酷な気もするな」
雲嵐がつぶやくと、天籟はふむと考え込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます