第21話 義兄弟の契り
――久しぶりの心地よい肌の温もり。そうだ、子どもの頃を思い出す。母の鼓動を聞きながら安心して寝たっけ……。
パタパタッ。朝も明けきらぬ暁方、鶏鳴の声が遠くで聞こえると小窓から飛び立つ小鳥の羽音で
「うーん。ひさびさ熟睡しちゃったなー。いけない
何かに包まれているが、動けないしよく見えない。思いきり手や足をバタバタさせ、ようやく頭を少し上げると、
(え……えええええっ!)
「……ん」
「ちょっと、天籟さま! ななな、こここ、これは反則です‼」
寝起きなのにすでに美しい顔が目の前に。天籟の
「おー月鈴、おはよう」
天籟は近距離なのに爽やかに挨拶をする。
「おはようございます、天籟さま。……じゃなくて、もう
林檎顔の月鈴は天籟をねめつけ飛び起きた。
「あら、
「おっと、月鈴。大声をだすなよ。詩夏に気づかれるだろう? なんせオレたちは仲良し夫婦だからな。さあ、行け」
「くっ……」
引きつった顔の月鈴を横目に天籟はニヤリと笑い楽しそうだった。
***
「天籟兄上」
汀州は丁寧に拱手した。汀州は亡くなった第七皇子の鴻洞殿下とは違い折檻に加わらず、聡明な皇子だと思っていた。
「やあ、汀州じゃないか」
「すばらしい妻を迎えられたようで、おめでとうございます。あとでお祝いの品を届けさせます」
「すまないな。ありがとう――」
「兄上にご報告いたします。陛下の命によりわたしは、来週にでも
「なに? 波国に、か」
「ええ、兄上、何か問題でも?」
「いや――。何のために行くのだ」
「はい。今や燿国より波国の景気がいいので、その視察にわたしが任命されました。そのあとは、隣国の
「!」
戦場と聞いて天籟の顔色が変わった。
「それは――」
「ええ、わたしもいよいよ、皇子の運命から逃れられないようです」
「……そうか」
次期帝以外、粛々と皇子は消される。異国の地での事実上の幽閉か、事実無根の罪人。長期遠征など、その後、燿国に帰還することなく一生を終える。
「兄上――。ここを去るわたしから最後のお願いしてもよろしいですか?」
「ああ。わたしにできることがあれば、申してくれ」
「兄弟の契りをかわしたいのです」
「兄弟の……契り――。何をいう。あれは血のつながりのない者同士の同友関係ではないか。オレたちは母は違えど兄弟だぞ」
「わたしたち皇子は生まれた時から回廊で会うくらいでほとんど交流もない、血のつながりはあれど関係は友以下じゃないですか!」
「確かにそうだが……」
「兄上、来儀兄上たちが、何もしていない天籟兄上に対しての折檻をわたしが心を痛めていないとお思いですか? いずれ粛清されるから情がうつらぬよう我関せずと努めてまいりましたが、遠征が決まった今、わたしは天籟兄上と仲良くしたかったです。ただの兄弟として――」
「汀州……」
***
青白く今にも消えそうな細い月夜に、月樹宮の象徴である月桂樹の下で
「わたしは天籟兄上のことを忘れません」
「オレもだ」
「それに、わたしは諦めてはいませんよ。必ずや
汀州はいたずらっぽく笑った。
「そうだな。汀州がいつ帰ってきてもいいように、役職を作っておこう」
汀州を見送り部屋に戻る、月鈴は鷹の世話で月樹宮にいなかった。長椅子に腰を下ろすと
汀州の居場所を作るとして、だがオレは……何だ? 月樹宮を与えられ、呪いが解けたとしてオレは消されるのかもしれない。
オレの亡き後、月鈴はどうなる? 月鈴の夢を叶えてあげたい。だが後宮の、妃や妻同士の争いに巻き込まないようするにはどうしたらいいのか……。天籟は立ち上がり小窓から外を眺める。
闇夜にまぎれて雲がうごめいた。
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