第3話【お風呂ごときで、家族喧嘩】

「美由。今日はご飯食べたらすぐに風呂入れよ。その後、父さん入るからな」

「は~い」



美由の実家では、大体お風呂に入る順番が決まっている。始めに律・次がオレ達か美由の父親・そして美由の母親だった。

美由のおばあちゃん、デイケア施設で入ってくるため、家では入らない。


以前は律・オレ達・美由の母親・そして翌朝3時頃から美由の父親が入っていた。しかし『朝の3時から入ると寒いから』という理由で、1ヶ月くらい前から美由の父親が夜に入るようになったのだ。

それからというもの、美由の父親が入る日には美由に「早く風呂に入れ」と急(せ)かすようになってしまっていた。



ある日。オレがテレビを観ながら夕食を食べていると、

「いつもより食べるのが遅いじゃないか!昨日からわしは『風呂に入る』と言っていただろう!テレビを観ながら食べているから、遅いじゃないか!」と怒られてしまった。


「えっ!?いつもと食べるペースは変わらないけど…」

「もういい!わしが先に入る!!」

そう言って、美由の父親は、先にお風呂に入ってしまった。


すると、ご飯を食べていた律がいきなり怒り出した。

「どうせオレが帰ってくるのが遅いから悪いんだろ!!」

そう言った後、箸(はし)を投げた。

「律…」


「オレは仕事して帰ってきてるのに…!!」

「律は悪くないよ。お母さんが悪いんだよ」と、美由の母親。

「母さんは何も悪くないよ!!」と、律。

「そうだよ!どうせ全部私が悪いんでしょ!!」とオレ。


「仕事で残業して腰の病院も行ってから帰ってきてるからどうしても遅くなるんだよ!!『病院行くからなるべく残業少なくしてください』って頼んではいるけど…。今日、とうとう職場でキレたよ!!」

「律…」



「アイツもムカつくんだよ!!」

『アイツ』とは、美由の父親の事だ。


そう言って、律は2階の自分の部屋に入って行った。



「なぁAYA。オレらって、何も悪く無いぜ!」

「TAKUYA。だってさっき、『全部私が悪いんでしょ!!』って言ってたじゃない!」

お風呂に入りながら、オレはAYAに話しかけた。


「だってさ。考えてもみろよ。風呂に入る順番なんてさ、美由の父親が先に入れば良かっただけだしさ」

「でも…。私達さえ帰ってこなければ、こんな事にはならなかったと思うよ?律君・美由ちゃんのお父さん・美由ちゃんのお母さんだけだと、何の問題も無かったはずだよ?でも私達が間に入るから、美由ちゃんのお父さんと私達とで9時までにお風呂出なきゃいけないわけだから…」


「AYA!オレ達は『この家を出て一人暮らしをしたい』って言ってるのに出させてもらえてないんだ。それは美由の父親が『お前には一人暮らしはムリだ』ってオレ達にハッキリと言ったからなんだよ!だからオレ達は堂々としてりゃあイイんだよ!」

「TAKUYA…」


「今は働く気も無いから、仕事探してるフリしてりゃあイイんだよ!」

「そういうモノなのかなぁ?」

「そうそう!」

そう言って、オレたちは脱衣所に出た。



「──」

裸のままオレは、鏡を見ながらしばらくの間ボーッとしていた…。

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