第1話【最近よくみる夢】

最近、“オレ達の来世?”と思ってしまうような夢をよくみる。

そう遠くない将来(20~30年後?)、街が大洪水に見舞われ、僕達が山の上でそれを見ている夢だ。街の人々は流されたり、家の屋根に登って助けを求めている──。



『地球温暖化』と言われている昨今、各地で大規模な洪水に見舞われ続けている。数年前にも美由の実家の近くの街で大洪水が起き、多数の死者が出た。この模様(もよう)は全国のニュースでも長時間流され、律の働いていた職場も完全に水に浸(つ)かってしまい、彼は別の店舗に転勤になってしまっていた。

それが頭に鮮明(せんめい)に残っているからなのかは分からないが、今頃になって、数日間連続でこの夢をみていた。


夢の中では自衛隊も出動し、救助を行っていた。

ニュースを見ていち早く山の上の高校に避難していたオレ達は助かり、洪水に巻き込まれている避難できなかった人達を見ている。

その高校の周りを散歩していると、アヤの大好きな杉崎先生が居て、彼女に気付いてくれて、話しかけてくれて、そこでいつも目が覚(さ)める──。


話がたくさんできる時もあれば、話しかけられる時にスマホの目覚ましが鳴って起きてしまう時もある。

話をする時は、いつもアヤが出てきていた。



“良かった。アヤは、まだこの中に居る──”


アヤは「私達が寺田家を追い出されたのは私のせいだ」と自分自身を責(せ)めてしまい、美由の実家に帰ってきてからは外に出てくる事は全くなくなってしまったが、夢をみる事で、『まだ居る』という事が伝わってきていた。



アヤには拓也から何度も話しかけてもらってはいるが、なかなか出ようとはしなかった。自分の殻(から)に閉じ籠(こも)り、心を閉ざしていた。


美由も外にはあまり出てこなくなってきていて、オレ達以外の他人とは全く会おうとはしていなかった。


「この中のみんなや、砂田先生や、砂田病院の人達としか会いたくない」。以前、オレにそう言っていたっけ。



“また入院したら、今度こそ出て来てくれるだろうか?”──そう何度も繰り返し思うが、神崎家の家族が許さないだろう。

「入院させられるお金なんて、うちには無いからね!」とキツく言われてしまったからな…。



昨年の6月に砂田病院から真田クリニックに無理やり転院させられた事で、“もう砂田先生に会えない…”と精神的なダメージを受けてしまった美由。その上河村隆一のInstagramも観れなくなった事で、さらに心の傷が深まってしまった。

しかも、『入院もできない』・『一人暮らしもできない』となると──。


純粋な彼女が心を閉ざしてしまうのも、無理はなかった。

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