第1話【「もう、出たくないの?」】
結局飲食店も『不採用』だったらしく、面接官が指定した日時までに連絡は無かった。
もう、面接を受ける気は無かった。
ハローワークの求人票を見ても時間が合わないものばかりだったため、どちらにしろ受けられはしなかったのだが…。
そんなある日。有正との面会交流の日がやって来た。
12月26日(日)だった。
11時30分頃から面会が始まった。
有正はサンタさんから目覚まし時計をもらったらしく、それを大事そうに抱えて車に乗っていた。
「ママ、おはよう」
「『こんにちは』だよ、有正」──そう言ったのは、AYAだった。
その時、美由は出て来なかったのだ。
それから2時間ほど交流したが、その間、驚いた時ぐらいしか美由は出ては来なかった。
美由が出て来ないとなると、やっぱりAYAかオレが美由のフリをして出なければいけなくなる。
今回の面会交流の間もずっと2人が交代で出ていたため、人格チェンジが激しく行われていた。
離人感も酷(ひど)く、途中何度も“今この身体はどちらの人格が支配しているのだろう?”という恐怖に似た感覚にさいなまれ続けていた。
そのため酷く疲れたのか、家に帰ると、すぐにベッドに横たわり眠ってしまった。
夜になっても、頭痛は治(おさ)まらなかった。
翌日。真田クリニックを受診した。
「まだ頭痛が酷いんです。フラフラするし…」
15分ほど真田医師と話した後、診察室から出てすぐに倒れてしまった。
すぐには起き上がれないほど、疲弊(ひへい)していたらしい。
5分ほど処置室で休ませてもらい、クリニックを後にした。
薬をもらい家に帰ってベッドに横たわり眠ったが、眠った後もまだ頭が痛く、ずっとフラフラしていた。
頭痛は、翌日の火曜日まで続いた。
火曜日は、食事の用意中や食事中以外は1日中眠っていた。
水曜日には、大分良くなっていた。
「美由。もう、有正とは会いたくないのか?」と、美由に語りかけてみる。
「…う~ん。正直、分からない。前はすごく“会いたい!”って思ってたんだけど、今はもう…。『疲れた』っていうか──“もうどうでもイイ”って思ってる。出る方が辛い。ずっとこの中に籠(こも)っていたい──」
美由は、とうとう外界から身を遠ざけようとしていた。
“疲れた”・“もう、誰にも会いたくない”と──。
このままでは、また彼女が消えてしまう。
オレは、それだけは避(さ)けたかった…。
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