第4話【籠(かご)の中の鳥】

その後2ヵ所保育士の求人を受けたが、両方とも『不採用』だった。


「職歴が多いな~」と、ある保育園で言われた。

40歳で15ヵ所。

“確かに多いな”とは思ってはいたが、“働いていない時期が長いよりはマシだろう”──そう思っていた。

最短で2ヶ月・最長でも3年弱の職歴で、理由は『契約期間満了』と『一身上の都合』だが、どこも長続きはしていなかった。


しかもピアノも最近は弾けておらず、最後の保育士の仕事からも大分経っていた。

そんなヤツが、保育士の求人に受かるワケが無かった。



そんなある日。

今度は飲食店の求人を見付けた。

そこに応募する事にした。


早速(さっそく)ハローワークで面接の日時を決める。

12月15日(水)の午後からに決まった。


「エントリーシートを書いていただくので、履歴書は必要ありません」と言われた。エントリーシートを書かされるのは、初めての事だった。


「今度こそ、決まりますように!!」



家に帰り、早速『いつシフトに入れそうか?』を両親に相談する。

自転車を購入するまでは、送り迎えは両親がするからだ。


すると、とんでもない答えが返ってきた。

「はぁ!?お前、自転車を買おうと思っているのか?冗談じゃないぞ!!危ないから、ずっと送り迎えしてやる」


こちらこそ、「はぁ!?」だった。

要するに、外出中はオレ達は完全に両親の監視下に置かれるワケだ。

今のところ、病院に行く際も美由の両親が送迎していて、病院内でも一緒だ。調停の際も、調停中は室内には母親は入れないが、待機中は一緒に居る。買い物なんて、当然させてはもらえていない。


もし今回仕事が決まっても、仕事中以外は親の監視下の中で生活するというのは変わらない…というワケか?


“せめて通勤中だけでも自由な時間が過ごせるなら、美由が出てきてくれるかも”…そう期待していたのに──。



「律なら自由に通勤させてやるけどな」と、美由の父親が吐き捨てるように言った。

父親の横で、美由の母親も頷(うなず)いている。

律は、相当美由の両親に信用されているらしい。


“もう少し美由達を信用してやれよ。信用しなきゃいけないところでしなくて、しないで良いところで信用するから、混乱するんだよ!!”──そうオレは思った。



25年前にアヤが勇気を振り絞(しぼ)って親戚のおじさんに強姦された事を話した時もそうだった。普通なら我が子である美由達を信じなければいけないはずなのに、「あんなに優しいお兄ちゃんが、そんな事するワケ無いでしょ!」と、親戚のおじさんの方を信用した。


そのクセ料理の腕は信用しているようで、「早くご飯作って」とせがむのだ。

この事に関してオレは、ただ『タダでご飯を作ってくれるから』という理由に違いないと思っている。



今のオレ達は、まるで『籠(かご)の中の鳥』のようだ──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る