第5話【もう、使えない──。】

河村隆一のInstagramをフォローしていたが、ある日を境に急にログイン出来なくなってしまった。


電話番号認証が必要になったからだ。



今年の3月末でスマホを解約してしまったため、Wi-Fiがとんでいない所だとネットに繋(つな)がらず、電話はWi-Fiがとんでいる所でLINE電話しか出来なくなっていた。



毎日Instagramを見てはそれにコメントをしメンションをもらう事が、美由の唯一の楽しみだった。

しかし、それを急に奪われてしまったのだ。



そして美由は、完全に塞(ふさ)ぎ込んでしまった。その事で、自室でもオレたちの前にさえ出てこなくなってしまっていた。


「もう死にたい…」と言う彼女をなぐさめたくても、オレは人をなぐさめる方法を知らない──。



「Facebookにも数日前からインスタと同じ内容でアップされてるから、見れない訳じゃないじゃん?」

「でも、返事もらえない──」

「それはLINEブログでも一緒だろ?それでもきっと、Ryu(りゅう)は見てくれてると思うよ?」

「…」



美由は、完全に外界から遠ざかろうとしている。その間、誰かが美由のフリをしなければならない。

拓也には、正人さんと別居を始めた頃から塞(ふさ)ぎこんでしまっているアヤちゃんと、美由の心のケアを任せる事にした。


経験豊富な彼になら、多分2人は心を開くだろう事を願って──。



「オレが美由のフリをするしかないのか?」

美由が心を閉ざしている間、オレが彼女のフリをすれば何とかなるかもしれない。



しかしオレが美由のフリをすると、美由とオレとでは明らかに違う点が数点あった。


1つは『女らしさ』だ。

この身体の中に存在する人格の中で一番ガサツなオレの時とは明らかに違い、身のこなしがしなやかなのだ。

美由は女性だから当たり前といえば当たり前なのだが…。


そして、『言葉遣い』だ。

オレは、どうしても自分の事を「オレ」と言ってしまう。

今まで美由やアヤちゃんたちと一緒に生活してきていた拓也ならまだマシなのだろうが、今回拓也に美由の心のケアを任せる以上、拓也に表に出てこさせるわけにはいかない。



“どうしたものか──”。そう悩んでいると、「仕方ないわね~」という声が聞こえてきた。そう言って出てきたのは、AYAだった。


「美由ちゃんが元気を取り戻すまで、私が代わりに出てあげるわ」

そうして、AYAが美由のフリをしてくれる事になった。


「良かった~!!助かる~!!」


AYAは、この身体に存在する人格の中では一番女性らしかった。

そんな彼女に助けてもらえるなら、『鬼に金棒』だ。



さっそく、AYAが着替えを始めるが…。

「本当はスカートが履(は)きたいんだけど…」

美由の父親からスカートを履く事を禁止されているため、泣く泣くズボンを履いた。



そしてすぐに、彼女は部屋の明かりを点(つ)けた。

「私…。暗いの、苦手なのよね~」


AYAは暗闇が大の苦手だ。夜は明かりをつけて、寝る時も豆球をつけて寝る。


オレはAYAとは真逆で、暗闇が大好きだ。日中はもちろん、夜暗くなっても一切明かりをつけない。

オレは、“日中は電気を消していても明るすぎるくらいだ”と思っている。



一体、いつになったら美由はまた出てきてくれるのだろうか?



しばらくは、AYAに頑張ってもらう事になりそうだ──。

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