きせつかんのないおにく短編集

えっ... 選べるの？

A：あのーさっき入り口でこの紙もらったんですけど... 死刑内容って選べるんですか？

B：あっ、はい。この3種類の中から選んでください。

A：...ん？1つ目の「電気椅子の刑」とか2つ目の「床が抜けた勢いでの首吊りの刑」とかは分かるんですけど、3つ目の「小籠包の刑」ってなんですか？

B：蒸したての小籠包って熱々でとても食えたもんじゃないんですよ。

A：へぇ～

B：それを無理して食おうものなら口の中の薄皮がブリンッ！って剥けるんですよ。

A：うわっ...

B：それを死ぬまで食わすっていう刑です。

A：長丁場だわ... 想像しただけで長丁場になりそう。そんな気しかしない。

B：そうですねぇ、1つ目と2つ目に比べるとねぇ... でもね、3つ目の刑が1番人気あるんですよ！

A：人気って何よ？そんなのがあるの？

B：はい。1番人気が「小籠包の刑」で1番人気がないのが「首吊りの刑」ですね。

A：そんなのがあるんだ。確かに首吊りってその中だったら1番辛そうだもんね。

B：あとこちら側としてもできれば「首吊りの刑」は避けてほしいんですよね。

A：どうして？

B：首吊りで死んだ後って、体を制御している力が一気に無くなるから、色んな所から色んな液体が出てくるんですよ。それを清掃するの僕らなんで、手間なんですよねぇ...

A：えっ、それってどの死に方でもそうなんじゃ？

B：まぁそうなんですけど、首吊りの場合はあの高台の上でやるんで、色んな液体が台についちゃうんですよ。それも清掃しなきゃならないんで、手間なんですよねぇ...

A：そうなんだ。ふーん...

C：あの、さーせん！早くしてもらっていいすかね？

A：ビックリした！急に大きな声出すなよ。ショック死するとこだっただろ！

C：そうなりゃー好都合っすよ。すぐ終わるしw

A：そんな言い方なくない？

C：俺らもこのあと色々とあるんすから... 早くしてくださいよ。

A：「早くしてくださいよ」ってなんだよ！あんたからしたら、いつものことかもしれないけど俺からしたら初体験なんだぞ！最初で最後の... 大体、スケジュール空けとけよ！いつ心が決まるか分かんないだろ！

C：心が決まるも何も死ぬことは決定してるんで...

A：そういう無粋なこと言うなよ！大体こんなものの後になんの予定があるの？

C：合コンっす。

A：...えっ？人の死を見た後に合コン行くの？ってか行けるの？

C：はい！余裕っす。

A：どんな神経してんだよ、お前！...で、その本は何だよ。

C：これっすか？「誕生日の花図鑑」っす！こういうの知ってると盛り上がるんすよw 78番の誕生花見てあげましょうか？

A：番号で呼ぶんじゃねぇよ。別にいいよ、興味ないし...

C：良いじゃないっすか。78番の誕生日は...

A：だから番号で呼ぶんじゃねぇよ。死ぬ間際くらい親からもらった名前で呼んでくれよ...

C：8月26日、誕生花は「センニチコウ」花言葉は...「永遠の命」っすねw

A：嘘つけ！永遠の命って、今から死ぬんだよ！悲しいツッコミさせんなよ。

C：あなたが勝手にしたんでしょうよ。

A：まぁね。...で、そちらの方はこのあと何かご予定あるんですか？

D：はい...

A：...ったく、どいつもこいつも、どんなご予定ですか？

D：今日、娘の誕生日なんで早く帰って祝ってあげたいなと...

A：さっきのやつとだいぶテイストが違う！戸惑いを隠せないよ... 大体そんな大事な日なら休みなさいよ！

D：はい... すいません。

A：そんな話聞かされたら早くしてあげたいけど、決めかねるなぁ...

C：それならこういうのもあるっすけど...

A：なにこれ？

C：この3つの刑が書いてあるボードを回します。それに向かってダーツの矢を投げてもらって、そのダーツの矢が刺さった刑を実行するという...

A：よくバラエティーとかで見るやつだ。

C：どうです？やりましょう！

A：俺に選ぶ権利はないのね... まぁでもこのままだと埒が明かないからしょうがないか！

C：じゃあそうと決まれば、78番お願いします！

A：早いよ！

C：お願いします！

A：分かったよ！(死ぬ間際なのに急かされるって...)

C：刺さったのは、なんと1番人気の「小籠包の刑」です！

A：よりによってそれかぁぁぁー