恋の架け橋猫パンチ!

綾月百花

恋の架け橋猫パンチ!

 私と涼君は内緒のお付き合いをしている。


 お付き合いって言えるのかな?


 少なくとも、私は涼君の事が好きだ。


 電車で痴漢から救ってくれてから、私達は一緒に登校している。


 高校入学前に引っ越してきた私の家と涼君の家は、近所だった。


 涼君は朝、私の家に迎えに来てくれる。それから、一緒に駅まで歩いて、一緒の電車に乗って、学校まで通っている。


 同じ部活のエース恵が、涼君の事を好きだと皆に言っていたので、秘密の交際だ。


 秘密と言っても、堂々と学校まで一緒に登校しているけれど、涼君が「近所だから俺が番犬になっているだけだ」と同じ部活の仲間に言っていた。


 涼君にとっては私は、庇護者であって、恋人ではない。


 けれど、それでも、私は嬉しい。


 だって、それは涼君にとっても特別って意味かなと、勝手に思っている。



 今日も部活が終わって、一緒に並んで歩いている。


 児童公園の横を通ったとき、猫の弱々しい鳴き声が聞こえて、私達は立ち止まった。

 辺りはもう暗くなっているのに、まるで助けてって言っているみたいな鳴き声だった。



「ちょっと寄ってもいい?」


「もちろんだよ、どこで鳴いているのかな?」



 私達は公園の中に入っていった。


 二人で手分けをして、公園の中を探した。



「あ、いたぞ」



 涼君の声がして、私はすぐに涼君の横に並んだ。



「わぁ、ちっちゃい」


「生まれたてかな?」



 街灯の下に小さな箱があり、真っ白な小さな仔猫がいた。


 日中に子供が遊んだのか、箱の中にはお菓子が入れられていた。



「こんな菓子なんか入れたら、腹壊すのに」


「涼君は猫に詳しいの?」


「家で、一匹飼っているんだ」


「そうなのね?」


「こいつ、このまま放置したら死んじゃうだろうな」



 涼君は鞄を置くと、猫を抱き上げた。



「体も冷え切って、どうするかな」


「ねえ、抱かせて」


「いいよ」



 涼君は私が鞄を置くと、抱かせてくれた。



「可愛い」



 軽くて、ふわふわで、プニュプニュしている。



「唯、飼うか?」


「うちは、弟がアトピーだから」


「それなら俺が飼うか?」


「でも、涼君の家、もう猫いるんでしょう?」


「ブチも拾った猫だけど、もう一匹くらいなら、飼えるかな」



 涼君は私の手から猫を抱いた。



「うちの子になるか?」


「みゃ」



 猫が返事をして、猫は涼君の家の猫になった。



「唯、猫、抱いて歩けるか?」


「いいよ」



 私は鞄を持つと小さな猫を抱っこした。


 涼君は鞄を持つと、猫が入っていた箱を持った。


 そうして、その日は私が涼君の家まで送った。


 涼君の家は、私の家の裏にある道沿いにある。


 私は気づかなかったけれど、涼君は一年生の時から、私の事は知っていたと言っていた。


 涼君は家に着くと、箱を壊してゴミ袋に入れて、倉庫に片付けた。



「ありがとう」


「いいえ」



 猫は涼君に渡した。



「今日もありがとう」


「ちゃんと家まで送るよ」



 涼君は学校の鞄を庭に置いたまま、私を家の前まで送ってくれた。



「近いのに、ごめんね」


「気にするな。おやすみ」


「ありがとう。おやすみ」



 私は家に入っていった。


 +


 扉が閉まると、俺は猫を抱っこして、自宅に戻った。


 俺の家は、兄貴達が既に自立して、末っ子の俺が自宅を好きに使っている。


 両親とも共働きで、帰りも遅い。


 鞄を拾って家の中に入ると、ブチ猫のブチが玄関に座って俺の帰りを待っていた。



「ブチ、ただいま」



 鞄を肩にかけると、ブチを抱き上げる。



「ブチ、妹を連れてきちゃったんだけど、仲良くしてやってね」



 目の周りと耳が黒で体と尻尾が白いブチは、小さな猫の存在に気づいて、興味津々だ。


 自室に鞄を置くと、そのまま風呂場に連れて行く。


 自分もシャワーを浴びたいが、この小さな猫を洗わないと汚い。


 ブチも一緒に入ってきたので、ブチも一緒に洗ってしまう。


 時間を見ると、まだ診察時間なので、猫用のキャリーリュックに詰めて自転車で獣医に連れて行く。


「名前をお願いします」と受付で言われて、猫の名前を考える。


『ゆい』はさすがに直球だし、他に名前が浮かばない。


「少し、考えますね」


「はい」



 受付の女性はニコニコしながら、了承してくれた。



「おまえの名前、どうするかな?」



 真っ白な仔猫を見て、考える。


 +


 土曜の部活の後に、涼君に遊びにおいでと招待を受けた。


 猫が元気になったから、見においでと言われた。


 私は少しお洒落をした。


 いつもツインテールにしている髪を下ろして、髪先を少し巻いた。


 リップは少し赤みのあるものにした。


 涼君の家の猫は、外に出していないそうだ。散歩はリードをつけて、夜に散歩しているという。


 お母さんが用意しておいてくれたケーキを持って、涼君の家に向かった。


 インターフォンを押すと、すぐに扉が開いた。



「いらっしゃい」


「お邪魔します。わっ、可愛い」



 涼君の手には、この間拾った仔猫がいる。


 玄関に入ると、もう一匹、猫がお座りしていた。



「すごい、お行儀がいいのね」


「こいつは、ブチって名前。ブチ猫のブチね」


「目と耳のまわり以外は真っ白なのね。可愛い」


「上がって」


「お邪魔します」



 靴を脱いで、家にお邪魔した。



「ケーキを持ってきたの」


「飲み物がいるね」



 涼君はキッチンに入っていって、仔猫を下ろすと、冷蔵庫を開けた。



「コーラとお茶、どっちがいい?」


「じゃ、お茶で」



 涼君はペットボトルを取り出すとテーブルに置いて、グラスを取り出し、ペットボトルのお茶をグラスに注いでくれた。



「お茶、一つ持ってくれる?」


「うん」



 私は自分のグラスを持つと、涼君は仔猫を抱いて、一つのグラスを持った。



「部屋に行こうか」


「うん」



 涼君が動くと、ブチが後を追う。


 とても可愛い。


 二階に上がって、涼君は部屋の扉を開けた。



「グラスは机に置いてくれる?」


「うん」



 涼君がグラスを置いた勉強机の上に、グラスを置くと、涼君は床に座って、仔猫を下ろした。



「少し、大きくなったね」



 私は涼君の前に正座で座った。



「足崩したら、痺れるよ」


「うん」



 私は横座りにした。



「病院に連れて行って、検査もしてもらった。来週、避妊手術をする予定なんだ。ブチも手術してるから、子供が生まれることはないと思うけど」


「ご両親に怒られなかった?」


「まあ、もう拾ってくるなとは言われたけど、今回は仕方ないって許してくれたよ」


「そっか、優しいご両親だね」


「抱っこしてみたら?」


「うん」



 涼君は足下で甘えている仔猫を抱き上げると、私に抱かせてくれた。


 みゃと鳴く仔猫は、とても軽くて、ふわふわで、とても可愛い。


 以前より白くなったのは、しっかり手入れされているからだろう。


「名前は、どんな名前にしたの?」


「ゆり」


「ゆり、可愛い名前ね。この子は女の子なのね?」


「そう」


「ゆりは百合の花からとったの?前より白くて、すごく綺麗」


「まあ、そんなとこ」


 白い仔猫は、金に見えるほど黄色い目をしている。鼻はピンク色で口元は上品だ。


 間近で見ていたら、



「危ない」



 涼君の声がした。


 猫の手が顔をめがけて、下りてきた。


 顔に猫パンチ?


 全身で身構える。


 涼君がゆりを抱えようとしたけど、私は背後に転んでしまった。


 私を押し倒すように、涼君がいる。


 顔が熱くなる。


 涼君の真っ直ぐな瞳が、私をじっと見ている。



「好きだ」


「私も、好き」



 涼君の顔が近づいてきて、私は目を閉じた。


 唇に涼君の唇が触れた。


 静かに唇が離れていって、私は手を引かれた。


 起き上がると、ブチとゆりが並んで座っていた。



「ゆりの名前は、『ゆい』の『ゆ』と『りょう』の『り』から取ったんだ。俺、唯が越してきてから、唯に一目惚れして、一緒の電車に乗っていたんだ」


「そんなに前から?」


「引いた?気持ち悪い?」


「ううん、ありがとう」


「これから、恋人として付き合って欲しい」


「よろしくお願いします。私も涼君のこと好きだったの。だから嬉しい」


 涼君は嬉しそうに微笑んだ。


 両手を握られて、告白されて、私達、両思いになりました。



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