第二十二話 出発準備
何とも言えない空気に包まれた作戦会議だったが、結論としては『じゃあその杖取り上げちまおう』という事になった。ミルルさん的には僕の神眼で無限の魔力の秘密を暴くつもりだったらしいが、原因が分かった今では神眼も必要ない。
けれども、乗り掛かった舟を降りるつもりはないし、僕自身も戦う事を強く希望した。ミルルさんはすみませんと頭を下げていたが、謝られることは何もなかった。むしろぶっつけ本番で神眼を使いました、でも原因は不明です。よりはかなり良い。その原因の原因がシエルの杖というのは何とも言えない。でも悪い事に使う奴が悪い。シエルは何も悪くなかった。
杖を奪い、それをシエルが持つことで確実にエルダーリッチーを無力化することが出来る。勝てる戦いだ。絶対にフィンギーさんの仇は討つ。
3本の短剣は管理小屋にあった剣帯を使って装備することが出来た。普段使っている剣も装備するとかなりガチャガチャした見た目になってしまったが、鏡に映る僕はちょっと格好良かった。
さて、武器は用意出来たが防具はどうなのかと管理小屋の倉庫を調べると、革製の胸当てが見つかった。古いがしっかり手入れがされていたようで、穴が開いていたり虫食いは見当たらない。ベルトを締めればしっかりと身に付けることが出来た。いきなり金属製を装備しても鍛えてない僕には荷が重いだろうし、これで良いだろう。
「それにしてもこの管理小屋、色んな物があるな……それも、戦闘に特化した道具ばっかり……」
確か、前任者はジョンと呼ばれたお爺さんだったはずだ。まさかとは思うが、単独で地下ダンジョンに潜ってたんじゃないだろうな……しかも、協会には報告せず……。
「あー……そう考えると辻褄が合うな……」
外した革鎧をジッと見つめる。
『クレセントドラゴンの革鎧 三日月の夜にだけ現れる白竜の革で作られた鎧 月の光を浴びると修復される』
「うっわぁぁ……」
嘘みたいな装備だった。こんなの倉庫に置いておいて良い物じゃないだろう。
ジョン爺……一体何者なんだ……。
□ □ □ □
武器や防具を身に付けたが、一度家に帰って全て外して墓守協会へ出向いた。アル君にザルクヘイムへ行く事を改めて報告する為だ。
「やぁ」
「来たな。引継ぎに関してはフランシスカが担当してくれる。何時から行くんだ?」
「明後日かな。でも今夜から来てほしい」
日にちを空けた理由と今夜から来てほしい理由は僕の昼夜逆転を直す為だ。今日は夜まで起きる。明日は朝起きれるようにし、夜に寝る。そして起きたらザルクヘイムへ向かう。
「まぁ時間帯が違うからな。矯正は必要か……分かった、フランシスカには伝えておくよ」
「それと、帰ってくる時間は未定だけど、早ければ一週間以内に帰ってこれると思う」
隠し部屋があるのは下層ダンジョンカタコンベの、かなり浅い階層だった。アンデッド軍団がなだれ込めばあのエントランスなんて酷いことになるのは目に見えてるが、それが起きていないのはあの隠し部屋に入る通路が狭いからだろう。ちょっと出てきたくらいじゃ通りすがりの探索者に始末されて終わりだ。
ただ、それが発見されて討伐戦が行われて失敗した結果、あの辺りに近付くような物好きは居ないだろう。今がどういう状況か、想像もつかない。
その日の夜にやってきたフランシスカさんはちょっと不機嫌そうだった。
「ザルクヘイム行くんだって? 相手はエルダーリッチーって聞いたんだけど」
「勝ち目のある戦いですから、問題ないですよ」
「ならいいんだけど」
こんなにツンケンした態度を取るような人じゃないのはよく知っている。原因があるとしたら、僕だ。
「大丈夫ですよ、絶対帰ってきますから」
「無茶だけはしないでね」
「えぇ、死にたくないですから」
グリ、と肩をグーで押してくるフランシスカさん。僕よりも強い人だ。安心して墓地を任せられる。
「僕がいつも使ってる聖水があるので持って行ってください。それとダンジョンは危ないのでくれぐれも……」
「君だけは言われたくないね!」
お、いつもの雰囲気に戻ってきた。
「じゃあ、行ってくるね」
「はい、いってらっしゃい」
裏口から出ていくフランシスカさんを見送って寝室へ入るとシエルが壁にもたれ掛かりながら僕を見ていた。
「どうかした?」
『別に、ナナヲ様ってモテるんだなぁって』
「どうかな……確かに周りに女性が多いのは自覚してるけれど、恋愛感情はないよ」
フランシスカさんは職場の先輩だし、ミルルさんとエレーナはパーティーメンバーだ。言い換えれば仕事仲間とも言える。シエルくらいだろう。気を遣わずに接することが出来るのは。
「僕はシエルが居てくれたそれで良いよ」
『なん……っ』
「てか徹夜でもう限界……寝るね。おやすみ、シエル」
『お、やすみなさい……』
カタカタと揺れる音が聞こえるが、それもすぐに遠くなっていく。意識が途切れる最後の瞬間、ぎしりとベッドが沈んだような気がした。
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