第十一話 仲間を求めて

 ボロいリュックに骨を詰めて家を出る。すっかり昇った日が町を照らすが、人並みはまばらだ。この時間帯に外を出歩いているのは同業者か、仲間を亡くした探索者か、それ以外だ。大体目の下に隈をこさえてるのが同業者。武装してるのが探索者。この町に来て学んだ簡単な見分け方である。


 協会は特に賑わう訳でもなく、淡々と業務をこなす。墓守志望がやってくれば、受け入れて訓練を受けさせる。死者が運ばれてきたら、空きのある墓地へ手配し、埋葬する。希望があれば葬式もする。


 そういった来客がなければ仕事は殆ど事務的なものがメインになる。各墓地の管理。墓守の管理。消耗品の手配や他の協会とのやり取り。経年劣化があれば補修の手続きをしたり、墓守からの報告があれば調査や依頼をしたり。

 忙しくはあるが、人手が足りていれば問題はない。問題なのは墓守の職場環境なのだ。それを打開するには……まぁ、それはまた別の問題だ。問題ではあるが、僕が躍起になって解決しなければいけない問題ではない。やれることと言えば、自分の職場環境を整えるくらいか。ちょっとやり方を変えてみたり、何かを買って導入してみたり。


 今までのバイトでも工夫してみたりはしたが、楽は出来た。そういう事を今回の職場である第770番墓地でも行いたいのだが、それ以上の問題が目の前にあった。


 地下ダンジョンである。


 そんな地下ダンジョンでドロップした不吉な見た目をした『レッドスケルトンの骨』。スケルトンテイム率100%という魅力的なアイテムだが、こっそり懐に仕舞うには少し派手が過ぎる。


「ということで持ってきたのだけど、どうしよう?」

「うーーーーん……」


 カウンターの上に置いた赤い骨。これが何か分かってはいるが、分かっているということは伝えていない。《神眼》なんてスキル、べらべら吹聴して良いものとは到底思えなかった。


「いやー、めっちゃ強かったから普通にヤバかったけど、蒸留聖水のお陰で助かったよ」

「俺としてはその蒸留聖水ってのも気になるところではあるけどな……」

「濃い聖水って感じだよ。まぁそれはそれとして……この骨、ドロップ品だけど所有権はやっぱり協会?」


 慌てて、さりげなく流して気になっていた部分を尋ねる。


「いや、ドロップアイテムは拾った人間の物だよ。考えてもみろよ。ダンジョンに潜ってる探索者が所属してる探索者協会が『ドロップアイテムは全部うちの物なので死ぬ気で得た物も持ってこい』なんて言い出したらお前、戦争だぞ」

「いやそれはそうだな。分かった、骨は僕が貰うよ。でもこれ、何に使う骨か分からないんだよね……飾るか?」

「墓守の管理小屋に真っ赤な骨飾ってあったら不気味だろ」


 それもそうだ。


「高い金出せば調べてもらえるけど、どうする?」

「金掛かるのか……」


 神眼の隠蔽費用と思えば安いか?


「金貨1枚」

「高い……もっと給料増やしてもろて」

「俺も増やしてほしいわぃ」


 ということで調べてもらう話は流れた。使った場合はもう、何となくこうなったで通せば通りそうな気がする。アル君だし。そもそもアンデッドってテイムしたところで昼間、外には出られるのだろうか? その辺も含めてじっくりと調べていきたい。



  □   □   □   □



 そして夜がやってきた。お仕事の時間だ。


 最近の仕事の流れはまずは蒸留した聖水を入れた桶を手に墓石周りに柄杓で撒いていく。遠目から見れば墓参りに来た人みたいな感じだ。ちょっとずつ撒くだけでも効果があるので出来るだけ節約しながら撒く。

 それでも桶一杯では足りないので補充する。学習した僕は墓地の中央部分に樽を置かせてもらって、その中に蒸留聖水を入れてある。これを貯める為に往復するのは物凄く大変だが、これのお陰でかなり時短が可能になる。


 そうして短縮した時間をダンジョン探索に当てていた。


「さーて……」


 ダンジョンとなった墓石周りは一夜明けるとアンデッド達の盆踊り会場となっている。今夜もちゃんと会場は盛り上がっていた。その中からレイスだけを駆除する。これが中々難しい。


 次に残ったスケルトン達を倒す……前に、骨格を吟味する。


「ふむふむ……君はちょっと違うな」

「……ッ」


 スカン! と一閃、頭と胴体が切り離されて塵と化す。そうやって面接を繰り返していくが、本日は採用となるスケルトンは見つからなかった。


「うーん……中々見つからないな……骨格が女性で強そうなスケルトン……」


 探してるのは女性骨格のスケルトンだ。そしてついでに強そうな感じだ。どうせ骨でも仲間にするなら女性の方が良いなという個人的な理由だった。男友達はアル君が居るから、女性の知り合いも欲しいなっていう寂しさ溢れる理由だ。


 え? フランシスカさん? あれは戦闘民族だから……。




 そんな数日を繰り返していたある日のこと。蒸留聖水を撒き終え、いつもの盆踊り兼面接会場に向かうと雰囲気が全く違った。レイスも踊り狂ってないし、スケルトンが奏でるEDMも聴こえない。


 恐る恐るダンジョン墓石がはっきり見える距離まで進み、様子を伺う。


「なんだ、あれ……?」


 其処には一体だけ、スケルトンがボーっと夜空を見上げていた。

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