ダンジョンで黒猫の手を借りたら婿にされました

荒音 ジャック

ダンジョンで黒猫の手を借りたら婿にされました

 これはひとつの大陸が、4人の女神たちの手によって、四つの島に分けられた世界でのこと……


各島には女神たちが勇敢な者を見つけるため、あるいはただの余興で沢山の財宝と資源が眠るダンジョンを創り出した。


 そして、4人の女神の1人である「地母神」の島で、ある冒険者が一匹の黒猫を連れてダンジョンに潜ろうとしていた。


 灰色のウィザードとハットとローブを纏い、先端に菱形の瑠璃色の水晶が付いた杖を携えた魔法使いの青年が、右肩に一匹の黒猫を載せて冒険者ギルドに入った。


 青年は受付で受付嬢に「すみません。ラドルナ迷宮の潜入証をください」と頼むと、受付嬢は「はい、少々お待ちください」と言って書類を取り出して、タイプライターをカシャカシャと打ち込んでからスタンプを押す。


「お待たせしました! リックさん、こちらがラドルナ迷宮の潜入証になります!」


 受付嬢はそう言って魔法使いの青年、リックに小さなスクロールを渡し、リックは「それでは行ってきます!」と言うと、受付嬢は「猫ちゃんも気を付けて行ってくださいね!」と、リックの右肩に乗っている黒猫に手を振って送り出した。


 ギルドを出て、リックは街を歩いて鉄格子と番兵で守られた地下階段の前に来た。


リックは番兵に「潜入証です!」と言って先程のスクロールを渡すと、番兵はそれを確認して「どうぞ」と言って通す。


 地下階段を下ると、目の前に重々しい扉が現れ、目の前に立つとガコンと音を立てて開いた。


 リックは恐れることなく奥へと歩みを進め、ダンジョンへと潜る。


中は石レンガ造りの通路が続いており、壁には火のついた松明が刺さっているため、視覚に問題はなかった。


 道中、中型犬サイズのサソリ型モンスター「ビックスコーピオン」や胴体の太さが直径5cm以上・長さ1mの蛇型モンスター「ジャイアントスネーク」などにエンカウントしたものの、リックは杖を構えて魔法陣だけを展開し「フロストエッジ!」と氷元素魔法で凍結して「エアショット!」と風元素魔法の空気弾で粉砕して蹴散らした。


 モンスターを蹴散らした後の部屋で、安全を確保したことを確認すると、リックの右肩に乗っていた黒猫が降りて一緒に部屋を探索した。


 リックは本棚を漁っていると、黒猫は鍵のかかった宝箱を見つけたため、リックに「宝箱ありましたよ!」とリックに話しかけた。


 人の言葉を話す相棒の黒猫の呼びかけにリックは驚くことなく「待って! 今行く!」と本棚を漁るのを中断して宝箱の方へ向かった。


 リックは宝箱に杖を向け、魔法で施錠を解除すると、中にはアミュレットと指輪が入っていた。


「うーん、未鑑定品アイテムか……良いモノだといいな」


 リックはそう言いながらマジックアイテムにしまうと、唯一の出入り口だった扉が外側から破られて、棍棒を右手に握ったミノタウロスがブシューッと鼻息を荒げながら部屋に入ってきた。


「ミノタウロス!? まだここ第2階層だよね?」


 リックは驚きの声を上げながら杖を構え、突進される前に魔法陣を展開して詠唱を始める。


「放たれるは、無数の雹で出来た槍! アイシクルスピットヘイル!」


 イニシアティブをとったリックは無数の氷でできた槍をミノタウロスに放つがミノタウロスは飛んでくる氷の槍をものともせず、リックに向かって突進してきた。


 リックは黒猫を抱えて右に大きく飛んで突進を避けると、ミノタウロスはリックたちがいた場所を通り過ぎて壁に激突する。


 黒猫はリックに「流石にミノタウロスは無理ですか?」と尋ねると、リックは「無理に決まってるでしょ! 相手あのミノタウロスだよ! 猫の手を借りても勝てるかどうか」と言うと、黒猫はリックにこう言った。


「風魔法でアレを包む風を起こせますか?」


 リックはそう尋ねてきた黒猫に「サイクロンなんかでどうこうできる相手じゃないよ? 足止めにすらならない!」と嘆くと、黒猫はそんなリックに「手を貸すのでやってください」と言ったため、リックは「ああ……もう! 最悪君だけでもダンジョンの外に出てよね!」とやけくそになって、再びこちらに突進をしようとしているミノタウロスに杖を向けて魔方陣を展開する。


「起こるのは、巻き上げる嵐! サイクロン!」


 リックはミノタウロスを包む程の竜巻を発生させてミノタウロスにぶつけると、黒猫は尻尾に魔方陣を展開し「発火し、燃え上がれ! イグニッション!」とリックのように詠唱すると、突然竜巻の中で炎が燃え上がり、リックが発生させた竜巻で勢いを増した炎はミノタウロスの体を焼き焦がし「ブアアアアアア!」と苦痛の叫び声をあげると、突如爆発が起こり、爆風に巻き込まれたリックは部屋の外へ吹き飛ばされて気を失った。


 あれから何時間か経った後、リックは自分が泊まっている宿屋のベットで目を覚ました。窓の外を見ると、日が沈んで月が昇っており、夜だと解る。


最後の記憶ではダンジョンで途切れていたため、困惑していると「目が覚めましたか?」と、黒のワンピース姿の黒髪ショートヘアの猫耳の獣人の少女が話しかけてきた。


 たださえまだ困惑していたリックは「あの……どちら様?」と誰何すると、獣人の少女は「ここ数日一緒にダンジョンに潜っていた相方に酷い言いようだ」と返してきたため、リックは少女が黒髪金眼であることと、猫耳の獣人であることから「まさか……君なの?」と尋ねると、少女はクスッと小さく笑ってから答えた。


「そうです……数日前に路地裏で倒れていたところ助けてもらい、一緒にダンジョンを探索するようになったあの黒猫です」


 それを聞いたリックは「どういうこと? 喋るし魔法を使うしで普通の猫ではないと思っていたけど……」と疑問を口に出すと少女は事の経緯を話す。


「他のパーティーにいた時に呪いのアイテム取ったらあの姿になってしまって、仲間に見捨てられた私は路頭に迷っていたところをアナタに拾われたんです」


 それを聞いたリックは「じゃあ、なんで今は元の姿に戻ってるの?」と尋ねると、少女はリックにダンジョンで手に入れたアミュレットのことを話した。


「実は爆発で吹き飛んだ際にマジックバックから飛び出したアミュレットが私に当たって、急に光を放ったと思ったら元の姿に戻っていたんです。どうやら解呪の効果を持つ使い捨てアイテムだったみたいですね」


 とんでもない偶然に、リックは驚いていると、少女はリックの両手を掴んでこんなことを言いだしてきた。


「とにかく、アナタには大きな恩が出来ました! 私の部族の風習に則って結婚してください!」


 突然の申し出にリックは「え!? ちょっと待って、どうしてそうなるの?」と困惑すると、少女は「私の部族は大きな恩を与えてくれた異性を伴侶にする風習があるんです!」と食い気味で迫ってくるため、リックは「いやそうは言っても、普通こういうのって、もっと時間をかけてからなる関係じゃ」と言うが、種族の違いがあるのか? 少女は「関係ありません! こういうのは獲物でも伴侶でも見つけたら逃げられる前に必ず捕まえるのが肝心なんです!」と言って、リックをそのままベットに押し倒した。


「逃がしませんよ? 私の素敵な旦那様……」


 少女はリックの右耳に顔を近づけて囁くようにそう言って、ベット囲むように結界のようなものを展開する。


 こうして、猫の手を借りて危機的状況を辛くも脱したリックは、猫耳獣人少女の伴侶になり、幸せに暮らしましたとさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョンで黒猫の手を借りたら婿にされました 荒音 ジャック @jack13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ