第4話 俺かっこよくね?
俺の母さんは、名前は
おまけにスタイルも抜群で何処の雑誌のモデルさんですか?と、小一時間問いただしたい。
さて考察は此処までにしておこう。とにかく母さんに喋りかけてみますか。
「えと、母さん?」
「ッ!そ、そうだよ?母さんだよ〜?」
とりあえず呼んでみると母さんは一瞬ビクッと体を震わせ、そして何故か少しニマニマしながら返事をした。
「あの、ごめんなさい……何も覚えてなくて。とりあえず心配をかけました、ごめんなさい」
騙すようで罪悪感がすごいが、謝ろう。
真実を伝えることができない以上、今の俺には謝罪をすることしか出来ないのだ。
俺はそう言って頭を下げる。
「えっ!?だ、大丈夫だよ!ジンちゃんが無事ならそれで、うん。……それに久しぶりに母さんって言ってくれたし」
母さんは指をモジモジさせおどおどしながらそう返す。後半は小声でボソボソと呟くように言っていてよく聞き取れない。まあこちらに聞こえるように言わないということは、聞かれたくないことなのだろう。聞き返すのはやめておくことにする。
あと、脇に立つ先生と看護師さんが何故か感心したような顔をして頷いている。そして『珍しいですね』と看護師さんが先生に耳打ちした。
「どうされました?」
俺は気になることを放置するのが苦手なのだ。先生と看護師さんに尋ねてみる。
「あ、すみません。いえ、男性の方でここまできちんと頭を下げるのを見るのは滅多にないものですので。ほら、男性の方って皆さん結構態度が大きかったり、それに時々女性を毛嫌いしている方がいたりするじゃないですか。それなのに前原さんは丁寧に接していて母親想いの良い息子さんだな、と感心していたのです」
先生が俺を見つめながらそう答える。
……なんか気のせいかむちゃくちゃ見つめられてる。看護師さんといい、この人達は何故こうも凝視してくるのだろうか?
「そ、そうですか。ありがとうございます……」
うーん、ここまでどストレートに褒められるとさすがに照れてしまう。
しかし、先生の言葉は一体どういう意味だろうか。
男性というのはそんな生き物だったか?
態度が大きい人はたまにいる程度で皆ではないだろうし、女性を毛嫌いしている男性というのはめったにいないと思うんだけど……。男みんな女の子大好きだぞ。
……。
……1つ。
1つだけ心当たりがある。
……まさか。
この世界では男性の数が少ない。となれば、価値はかなり高いはずだ。そのため自分は偉いと勘違いし、男性がかなり高慢で偉そうになっている、ということだろうか。よくある男女比変換ものの小説でもそんな設定があったはずだ。この世界もそうなのか……?にわかには信じられない。いや、だがそう考えると母さんの行動にも納得いく部分がでてくる。つまり、そういうことなのか。なんということだ……。
ということは、
俺は、モテるんじゃないか?
いや、何を言ってるんだと思われるかもしれないが、この世界の男性が皆高慢で高圧的なやつだとすれば、おそらく俺はこの世界でも珍しい、女性に優しいジェントルマンでレディファーストで女性を一番に考え華麗に世の女性たちをエスコートしたり、さらに……(ry
ということなのだ。
また、先程の話でこの世界には一夫多妻制が存在していることが判明している。つまり、こここれは!
ハーレム、とか作れるんじゃないか!?
うおおお!なんだか急にテンションが上がってきたぞ!
しかも!しかもだ!おそらくこの世界の女性たちは美人さんばかりだ。事実母さんも先生も看護師さんも美人さんだ。恐らく男性から選ばれるのは顔が整っている女性ばかりだったため、遺伝子には美人さんばかりのDNAが刻み込まれている。悪い言い方だが、容姿が整っていない女性のDNAは人類の歴史上で淘汰されてしまったのだ。
その結果生まれてくるのは美人な女性ばかりだということだな。
これもオタク知識による完全な予想でまだ確定事項ではないけど、恐らく間違ってないと思う。
おぉ……神よ。
そんな思考をしつつ、神に祈るが如く両手をめいいっぱい広げていると、その場にいる人たちに怪訝な顔で見られていることに気づいた。
……コホン、これは恥ずかしい。
「せ、先生、それで退院はいつ頃になるのでしょうか?」
俺は誤魔化すようにそう問う。
「……そうですね。異常も特に見られないので、今日もう一度診察して何も問題なければ、明日退院ということにしておきましょう。いえ、前原さんがどうしてもというならもっと病院にいて下さって結構なんですよ?なんなら一生いても……」
な、なんだ?後半はよく分からないが、とりあえず明日には退院できるようだ。
一安心だな。
「だってさ!よかったね母さんっ」
明日から新たな生活が始まると思えば気持ちが高まり、笑顔でそう母さんに言ってみた。今こそ俺の人生の第2章が始まるのだ。エ、エルフとか獣人とかいないかな?流石にいないか……。
期待と諦念を胸にニヤニヤと妄想を膨らませていると、
「「「はうぅ……」」」
母さん、先生、看護師さんというその場の女性陣3人が胸を抑えて蹲っていることに気づいた。
「えっ!?皆さん大丈夫ですか?か、母さんも大丈夫!?」
みんな同様に顔を赤らめ、呼吸を荒げながらも大丈夫と答える。
……もしかすると、みんな体調が悪い中無理して来てくれたのかもしれない。申し訳ない。
* * *
その後、仕事があると母さんは名残惜しそうに帰って行った。どうやら、昼休憩の時間に来てくれていたようだ。
俺の診察結果は問題なく、明日退院することになった。その診察の時に見たのだが、他のお医者さんや看護師さんもやはりみんな美人さんだった。俺の予想はやはり間違ってなかったんだろうな。
そういえばみんな俺が退院すると聞いてかなり残念そうな顔をしていた。ふふふ、やはり男はかなり価値が高いようだ。
その日の夜、俺は暗く不気味な廊下を歩きトイレに向かっていた。
長い廊下に響くのは自身の足音のみ。こういうシチュエーションの時、後ろをついつい振り返ってしまうのはご愛嬌。
「うぅ……男性トイレ遠いよ……」
俺はそんなことを1人愚痴る。
やはり男性の母数が少ない為、比例してトイレの数も少ないのだ。
しかも夜の病院って無茶苦茶怖いのだ。俺は別にホラー好きという訳でもないし、肝が据わっているわけでもない。
正直普通に泣きそう。
心の中で弱音を吐きつつ懸命に震える足を叱咤しながら、歩を進める。
それから数分後、やっとトイレに辿り着いた俺はすぐに鏡の前に立つ。実はこの世界の前原仁くんの顔が気になっていたのだ。人生第2章を始めるにあたって、顔は本当に重要だ。
ぶ、不細工だったらどうしようかな……。
い、いや弱気になるな。あの美人な母さんの息子だぞ?俺は。イケメンに決まってる。
俺は意を決して視線を上げ、自分の顔を確認する。
妖しく光を反射する銀色の鏡に写っていたのは、
「う、美しい……」
絶世の美少年だった。
男性にしては少し長めの髪だろうか。肩に少しかかる程度の長さで黒髪がベースだが、毛先だけ銀髪になっている。目はキリッとしているが優しげな雰囲気も合わさって何とも言えない魅力的な感じだ。鼻と唇は母さん譲りの形の良い鼻に、桜色の綺麗な唇。
なんやねんこれ。
思わず関西弁がでてしまうほどの超絶美形。
……なるほど、これは先生や看護師さんの反応も頷けるというもの。男性というだけでなく、こんな美少年なのだ。
いや、まさか女性と同じで男性も皆美形なのだろうか……その辺は分からないが、とにかく俺はすごく美しかった。
ふ、ふふ。
これは俺が思い描くハーレム化計画を遂行しやすくなったんじゃないか?
なんだか凄く自信が湧いてきたぞ。
俺は夜のトイレにて1人ほくそ笑むのだった。
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