神ニアラガウセカイ

Mです。

第1話 神奪戦争

 世界の中央にある聖都。

 世界の心臓と呼ばれる……聖域が有り……

 そこには、神と呼ばれる存在が居て、

 その神は世界の創造と修正を繰り返している……

 そして、未だに終わりの見えない世界というパズルを完成させるため、

 神の気まぐれで、神が定めた者の中で勝利を収めたものの願いを叶える、

 気まぐれの掟が作られた。


 それを人は『神奪戦争』と呼んだ。





・・・



 「え……なんで俺が……」

 無精ひげの男に告げられ……俺はその日、

 開催の儀が行われる聖都にある大教会を目指した。



 開催の儀を終え……円卓を囲む7名。

 そして、今回の儀を取り仕切っていた、シルヴィアと名乗る聖女。


 神にその願いを授ける権限を与えられたのは……

 誰も、強い正義への信念と力を備わった者だと聞かされた。


 そして、俺もその開催の儀に呼ばれ権限を与えられた一人ということになるようだ。


 リセル=レイニードそれが、俺の名前だ。


 強い正義への信念……それが神のお眼鏡にかなったのかは知らない。

 俺は……ただ、誰かを守りたくて……

 でも、周りは言うほど弱くは無い。

 俺は……思うほど強くは無い。


 ただ……それでも……失い無くない……

 そんなものが、俺の周りには在りすぎるんだ。


 集められた7名は……それぞれが違った表情でこの場に座っている。


 「シルヴィア……と言ったか?本当にこの先に神が存在しているのか?」

 そう、左三つ目の席、俺から斜め左に映る席に座った青い髪の男、首には紫色のマフラーを巻いている。

 どうにも、神という存在そのものを否定しているようにも思える質問を、円卓から少し離れた場所に座る聖女へ質問を向けた。


 「当然です……この世界は神の修正と開拓により成立しているのです、そして……この神奪戦争の勝者に与えられる願いを叶えることで、人々が幸せに暮らせる世界を創造しているのです、そして今宵、0時を過ぎて開戦される神奪戦争が何よりも神が存在する証拠です」

 そうシルヴィアという聖女は青い髪の男に言う。


 「……この世界から神奪戦争は無くなったんじゃ無かったのかよ」

 青い髪の男はぼそりと独り言のようにそう呟いた。


 「それは、そうと……せっかくの話し合いの場です、この先、争うことになる6名の正義……信念を知る貴重な場面だと思いますが」

 シルヴィアはそう7名に向け言った。


 「……興味ない」

 そう、俺の左二つ隣、先ほどの青い髪の男の右の席の長く綺麗な黒髪の男……


 「それよりも、紅色の刀を持った女を知ってる奴はいないか?」

 探し人……恨みのある人物を探している……というようにも思える殺気。

 もちろん、俺がそれを知るはずもなく……


 「……べにいろ……かたな?」

 またしても、反応したのは青い髪の男……


 ガタリッと長い髪の男の椅子が後ろに倒れる。

 勢いよくたった男は、抜いた刀を青い髪の男に向けた。

 濃い紺色の刀身の刀……


 「知っているのか……聞かせろっ」

 そう、冷たく青い髪の男に向け問う。


 青い髪の男はつまらなそうにため息をつく。


 「知らないね……こんな場所でそんな物騒なモノを向けるな」

 そう青い髪の男は返した。


 「本当だろうな?」

 本当に何も知らないのかと脅すようにさらに問いただす。


 「……しつこいな、そもそも人にものを尋ねる態度ってのを勉強して出直せ、それとさっさと、その刀を下げろ、僕のマフラーに少しでも触れてみろ……その時は……」

 青い髪の男は黒い髪の男の顔を向けずそこまで話すと、その先は言葉を呑んだ。


 「その時は……?」

 少しムキになるように刀の先を青い髪の男に近づける。


 「……ぶっ殺すっ」

 どこか温厚だった態度が一転し、その言葉だけで優劣が逆転したのではと勘違いするような青い髪の男の言葉に……


 「ふんっ……」

 つまらなそうに、倒れた椅子を元に戻し黒い髪の男は座りなおす。


 

 「あーーーーッ!!」

 ちょっとした沈黙を破る叫び声。


 白い髪の男が何やら叫んでいる。


 「てめぇ、俺の分のご馳走を奪いやがったな」

 白い髪、女のように綺麗な白い肌……それとは逆の黒い服に身を包んだ男。

 そして、その左隣に座る同じく白く長い髪に黒いカチューシャをした女性は、口周りにソースをつけながら、ブンブンと頭を振る。


 「証拠……がありません」

 ごくんと何かを飲み込んでから、黒のカチューシャの女性は罪を否定する。


 「てめぇの口の周り、鏡で見てみろっ」

 そう白い髪の男がそう黒のカチューシャの女性に向け言うが……

 べろりと舌でくちまわりを嘗め回すと……


 「真相は闇の中です……困りました、迷宮入りです」

 カチューシャの女性はお腹に手を当てながらそう答える。


 「ざけんなっ、どう見てもお前だろっ、正義どころか悪じゃねーか」

 この場に相応しくないと言いたげに白い髪の男が言った。


 「いいえ……この場に悪なんていません」

 キリっとカチューシャの女性は言い返す。


 「……もし、この場で悪を吊るしあげるとするのなら……悪いのは……」

 何故か、白い髪の男はその言葉にごくりと緊張したように生唾を飲み込む。


 「……びんぼーです」

 えっ?思わず……その場にいた全員がずっこけているのではないかと心配になる。


 「あなたは、びんぼーを馬鹿にしますか?それとも可愛そうだと手を差し伸べますか?」

 強い目力でカチューシャの女性はそう続けている。


 「貧乏な者が……生きる為に行動し、それが少しでも誰かの不利益になれば、それは悪ですか?貧乏が必死に生きる様は貴方は悪だと言うのですか?」

 そんな強いカチューシャの女性の言葉に……


 「あ……えっ?」

 完全に言い淀んでいる。


 「びんぼーは……時にとんでもない悪になり……そして時に、しょうも無い正義なのですっ」

 そう名推理で犯人を言い当てたかのように、カチューシャの女は満足したように再び自分の皿の食べ物を食べ始め……


 「先生シルヴィアさんっ!」

 突然、ぴしっと姿勢よく手をあげると……


 「残った……食べ物はこのパックに詰め込んでください」

 そうカチューシャの女はシルヴィアに向けて言う。


 「……なぜ?」

 額に大きな汗が見えてきそうな……聖女。


 「……持って帰ります」

 当然のように、カチューシャの女はピシっと返事をする。


 「……なぜ?」

 聖女は同じ問いを繰り返す。


 「……びんぼーですっ!」

 その言葉ですべてが正当化されたかのように、実にいい面構えで……

 名言……迷言と自白を終える。


 しかし、誰もそれに突っ込むつわものはいないようだ。


 白い髪の男の左隣……

 精気が抜けたように、貧乏女と同じようにただもくもくとフォークを口に運ぶ動作を繰り返している。

 紫色の髪……黒いツバの少し大きめな中折れ帽をかぶっている。


 そして、その左となりが……俺、リセル……

 そして、その俺の左隣……


 「アルド=レイニードです……せっかくです、自己紹介くらいしておきませんか?」

 そう……俺の左となりの男が言った。

 濃い赤茶色の髪……アルドと名乗った男はそう提案する。


 「……興味は無いが、オウカ=ホウジョウ」

 長く黒い髪の男、紺色の刀を持つ男が続けて名乗る。


 「……ナヒト=ミクニ」

 「……この姓を名乗る資格はないかもしれないが」

 そう、二言目は小さな声で付け足す。

 青い髪……紫色のマフラーを巻いた男。


 「シエル=ルナブルク」

 「びんぼーですっ!」

 何故か敬礼のポーズを取り白く長い髪の黒いカチューシャをした女性が名乗る。


 「……えっ名乗る……のか……」

 隣の白い髪の男はぶつぶつと言いながら……


 「マ……マコ=ウィル……だ」

 そう……少し気まずそうに名乗る。


 「………」

 紫色の髪の中折れ帽子をかぶった男に注意が向けられる。


 「……あぁ、クレーゼ=ランハルト」

 そうだるそうに名乗る。


 そして、目線は俺に向かう……


 「……リセル……リセル=レイニード」

 名乗った瞬間、きちんと自己紹介を聞いていた者は俺の隣の男と、

 顔を交互に見ている。

 正直……どこも似ていない二人……

 

 「……二度とその姓を名乗るな、当たり前のように家族面するな」

 左となり……アルドはそう俺に告げる。


 実際に……俺はこの左となりの男と血のつながりがあるわけではない……

 そこには、複雑そうで、複雑でもない事情があるわけだが……


 自己紹介しろ、名を名乗れ……と提案した奴が……

 心の中でそう文句を言う。


 ……その後の会話はほとんど覚えていない。


 今日、この日……出会った7名。


 アルド=レイニード


 オウカ=ホウジョウ


 ナヒト=ミクニ


 シエル=ルナブルク


 マオ=ウィル


 リセル=レイニード……


 明日には敵……場合によっては死合いの相手だ……



 問おう……


 己の正義と……力を駆使し……

 この戦いを勝ち抜いて……神に何を願う?



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