空想パティスリー~パティシエになりたかったので、異世界でお菓子販売始めました~
@kaede_tu94
プロローグ
バタークリームのいい匂いがする。ハンドミキサーでぐるぐると回しながら、香りも楽しめる。これもあってお菓子作りは楽しいんだよね。
でも、何だか違う臭いが漂ってきているような気がする。
いい匂いではない、確実に悪い方。人間に害のあるような臭い。鼻を刺すような。
これは何かが燃えてる?
隣のガスコンロを見ても、そもそも火はついていない。なら、ストーブか?後ろを振り返っても何の変化もない。他に火の元なんてあったっけな・・・?
家の火元なんて、基本的にキッチンぐらいしかない。
考えている間にも臭いはどんどん強くなっていく。
もしかして、ご近所さんの家で火事でも起きてる?
換気扇から煙が入り込んできているのだったら納得だ。
考えると背筋が凍る。だとしたらここにいるのも危ない。急いで確認しよう。
ハンドミキサーの電源を切ろうと手元を見た。
原因はこれだった。黒い煙が一筋を描きながら漂っている。周りばかり見てて気が付かなかった。これだと、分かってしまえばあとは単純に電源を切ればいい。私はレバーを「OFF」に持ってくる。
止まりはしたが、煙が増えてくる。本当にやばい気がする。もしかすると、中で火がついてるのかもしれない。熱くなったミキサーを流しに放り込む。
水を流そうとした。
衝撃が私を襲う。壁に跳ね飛ばされ、けたたましい音の中、目の前が煙で覆われる。
爆発したんだ。体の節々が痛い。煙で姿を見ることが出来ないが、血があちこちから出ている感覚がある。
このまま、私死ぬんだろうな。そう悟った。体は動かないし、息苦しい。
煙で酸素はまともに吸えていないだろう。
まあ、好きなお菓子作りで死ねたのなら、それは本望かな。
でも、ちょっと待って。
この爆発がニュースに載った時のことを考えてみる。
ハンドミキサーが原因で爆発したんだよね。
「死因:ハンドミキサーの過剰使用による事故」と言われるのだけは、絶対に嫌。せめて不慮の事故として、扱って欲しいね。
ダイニングメッセージでも、残せないかと最後の力を振り絞って腕を伸ばそうとしてみる。全く動かなかった。そもそも、感覚が麻痺し始めていて、動いているのかわからなかった。
もう無理だ。意識が朦朧とし始める。
煙の中で、私はそっと目を閉じた。
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