子猫のピカソ

水曜

第1話

「あー、お腹が減ったなー」

「ニャア」

 あまりの空腹に、私のお腹が大きく鳴る。

 飼い猫のピカソもひもじそうに鳴いた。

 

 私は絵描きだ。

 ただし、売れない絵描きである。

 財布はいつも空っぽ。

 飼い猫の明日の餌代にも困っている。


「ニャアニャア」

「まあ。待ってろ、ピカソ」

「ニャアニャア」

「今に売れっ子の絵描きになって、お腹いっぱい食べさせてやるからな」

「ニャアニャア」

「もうその台詞は聴き飽きたって? そう言うなよ」


 子猫のピカソは捨て猫だった。

 路地裏に捨てられていてお腹を空かせて鳴いているところを、私が拾ったのだけれども。甲斐性のない飼い主のせいで、今もこうして飢えている。


 私の描く絵は、どうも大衆に理解されないというか。

 ただ絵具を塗りたくっているだけで、何を描いているかまったく分からないとよく言われてしまう。


 誰も見向きもしない私の絵を、唯一眺めてくれるのは子猫のピカソだけだ。

 

「ニャア」

「うん? どうしたピカソ」

「ニャア」

「あ、おい!」


 ピカソが自分の手に絵具をつけると、真っ白なカンバスの上を悠々と歩く。

 

 何度も。

 何度も何度も。

 何度も何度も何度も。

 何度も何度も何度も何度も。


 歩き続けて出来上がった軌跡は、驚くべきことに私の絵とそっくりだった。


「おお、ピカソ。さすがは絵描きの猫だな!」

「ニャア」

「何だ手伝ってくれたのか。はは、これが猫の手を借りるってやつかな」


 その後も、ピカソは私を真似るように飼い主そっくりの絵を描いた。

 戯れに、私はその様子を動画に撮って皆に見てもらった。


 するとどうだろう。

 一気にピカソは絵を描く猫として注目を集めた。

 ピカソが描いた絵を是非買いたいという者も現れ、驚くような値段で取引されるようになったのだ。

 おかげで、私は大金持ちになった。



 私の絵そっくりのピカソの絵は今日も高値で売れる。

 ピカソの絵とそっくりな私の絵は今日も一切売れる様子はない。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

子猫のピカソ 水曜 @MARUDOKA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ