猫の手をかりた勇者の話

花月夜れん

その勇者、選択する

「いわし、すまない! 手を貸してくれ!!」


 魔王城、勇者のオレ【ナナシー】は三人の仲間と一匹の猫【いわし】とともに魔王に挑んでいる最中だ。

 いわしは優雅にオレたちの後ろで結界をはってもらっている。仲間の神官が猫可愛がりしてるから特別扱いだ。こんなところまでついてきて、高みの見物を決めている。

 だが、いまはそれどころではない。次々に襲いくる魔王の手下。仲間もオレも限界だった。


「いいんだな、ニャーが行っても?」


 無駄に威厳のある声が頭の中に響く。お前しゃべれたのかよ!


「あ、あぁ、手伝ってくれ!!」

「本当にいいんだにゃも! 後悔しても知らんにゃも」


 期待なんてしていない。だが、アイツの結界をとけば神官が少しは余裕が出来るはずだ。


「もちろんだ!」


 そう言うと、いわしは神官にアイコンタクトをしていた。

 パァンと結界がはじけると同時に、空中を優雅に飛ぶ一匹の猫が魔王の前に躍り出る。


「おい、何を前に出てるんだ!!」


 相対するいわしと魔王。魔王は玉座から立ち上がるといわしの前に進み出た。


「いわしちゃぁぁぁぁぁん!!」


 神官が叫ぶ。だがあの位置では、もう間に合わない!

 そう思っていたのに――。


「ふぉぉぉおっぉぉぉぉ、ぬこたまぁぁぁぁぁぁ。我ら軍門にくだりますぞぉぉぉぉぉ。だから、撫でさせてくださぁぁぁぁぁぃい」


 …………。


 ◇


 オレは猫に手を借りた。


「いわしちゅぅぁん」

「勇者いわし様ぁぁぁぁぁ!!」


 そしたら、世界は平和になって――。

 オレは勇者から、ただの人になった。


 何でだよ!!!!

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猫の手をかりた勇者の話 花月夜れん @kumizurenka

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