第5話 猫、怒る

 長口上を終えて、ふうとオニキスは深く息を吐いた。

「話過ぎましたね。事情は今言ったものが全てです。」


 オニキスさんは淡々と話すけれども、このジェイド様の不遇とオニキスさんの現状はその側妃って奴が原因じゃないの!

 「側妃って、何なんですかね・・・」

 怒りで体が震えてきた。

 「異世界から転生したついでに、無関係の私が調子にのりまくる子供大人を成敗したって、誰にも迷惑かけませんよね?」

 「ジンジャー様・・・」

 「その側妃って奴を黙らせるには、ジェイド様が王になればいいんでしょうが、それまでのさばらせることになりますね。この屋敷がある土地、ジェイド様の領地にできませんか?」

 「いやしかし、国の資産を増やすため、魔族との友好関係を築く、国境の防衛など、言い訳は立ちますね・・・」

 猫の表情に出たか分からないがどや顔で

 「では人を連れてきても良いですかね?ジェイド様がこのまま封じられているのは向かっ腹が立ちます。まずはあの子が立派に王になれるように、お膳立てがしたいのです!!」

  「ジンジャー様!!」

 そういえば竜の存在を思い出したな。ぼんやり思いながら

  「まずは呪いの森を制覇してきます。ジェイド様にもしばらくおでかけしますって言わないと」

 計画を練らねば。一応この屋敷があるのは打ち捨てられたかつての領地。勝手に住み着いて盛り上がったら、きっと領主が誰か問われるはず。いないと言えば派遣され年貢をとられるが、ジェイド様が少しでも国の資産を増やしたく自分で開拓を始めたとなれば、王の許しさえ得られればなんとかなりそう。

 ただ問題は王が床に伏していることだが、オニキスさんがとある筋に調査させたというあたり、多分王宮との繋がりや連絡する手段はありそうだ。オニキス家を解体された際、元々いた人は散り散りになったと言っていた。多分側妃に仕えるのが嫌だから隠遁したのかも。優秀な人材揃いだった公爵家の使用人を虐めたいとか考えそうだからね、あの性格だと。(会ったことないけど仕事や学生時代にああいう手合いには何度も遭遇したから、何となくああいう感じかなって)

 まずオニキス家の勤め人を探してここに連れてきて、仕事にあぶれた人や困った人にもここを目指してもらおうか。

 あの竜が屋敷を守ってくれたら百人力だし、芸を覚えさせてお金を貰ってもいいかも!!

 そうと決まればあの森へ行くぞ!!とその前にこれだけは聞いておかねば。

 「あ、オニキスさん、この剣って何でしょうか?」

 鉛筆みたいになった剣を見せた。

 「これは・・・?」

 「ジェイド様が見つけてくれた森の石造りの祠に刺さっていました。抜けるもんなら抜いてみなみたいな文言が壁に刻んである場所の。」

 「森、あの呪いの森と呼ばれる森には、呪いを封じるために聖剣が刺さっています。ただ最近その聖剣の力が緩んだのか、呪いが勝ったのか、おぞましい気配が漂っていました。」

 「オニキスさん、そんな場所をジェイド様は遊び場所に選んでいたとは・・・なかなかワイルドなお方なのですね・・・」

 「釘は刺していたのですが、行くなと言われれば行きたくなるものですね・・・。そういえば危ない場所でした!!」

 「いや、うっかりさんですか?!」

 咳払いをしたオニキスさんに、私は話題を切り替えた。

「ならその呪いの蓋?栓になっているらしき聖剣を抜いても大丈夫だったのですか?」

 すこし考えたオニキスさんは、

 「抜けたということはジンジャー様が選ばれたということでしょう。猫の手に合わせて大きさが縮んだあたり、剣を振るうことが好ましいと判断されたのではないでしょうか。さしずめエクスカリニャーと。馬具を利用したので固いかもしれませんが、仮の帯刀ベルトとしてお使い下さい」

 栓とか聞いたら抜いたその後が気になってしょうがない。魍魎跋扈する魔窟になっていても困るし、聖剣を持った私が戻ればなにがしかの反応があろう。しーんとしてれば回れ右。騒がしかったら脱兎の如く逃げましょう。猫だけど。

 オニキスさんは茶トラに溶け込む茶系統のベルトをくれた。うん、装着してもどちらの個性を邪魔しないシックでおしゃれな武具だわ。馬具を加工って、素人の技には見えない仕上がりなんだけど、「自分が作った」とは言っていなかったから依頼したのかな?まぁいいや。

 エクスカリニャーを右利きの私は左に差し、呪いの森へと向かった。

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