人の良心

3.14

人の良心

「あぁ、美味しそうだなぁ…」


目の前に並べられている大きなケーキ。

それに七面鳥や、暖かそうなシチュー…。

その少年は、ガラス越しにまじまじと食べたそうに見つめていた。

しかし少年の家は貧乏でこのクリスマスにもそんな豪華なものは食べれない。

ただぼーっとお店のショーケースを見つめているだけ…。

こんなことを毎年も毎年も。

しかしそれも今日、今年で終わるかもしれない…。


「坊や、どうしたんだい?この寒い雪の中、一人ぽつんとたって、」


目の前には、厚い毛皮のコートを着た優しそうなおじいさんが立っていた。

そして、気づくと真っ白な雪がぽつぽつと天使のように舞い落ちていた。


「さぶそうだねぇ、まぁとにかく家に来なさい…。あったかい、スープに美味しいお肉…何でもあるからねぇ…」


少年は断れるわけもなくそのまま一緒におじいさんの家へと向かった。

少年にでも分かる高級そうな車、そして大きな門。

誰でも思いつくいわばお金持ちの家。

長い庭を歩き、左右には、きれいな噴水が。

少年、見るもの全てが新鮮で初めてのものばかりだった。


「ほら、付いたよ、」


『ガチャァ…』


重い音がなると同時に目の前にあった大きな扉が開いた。

中はまるで長い迷路、奥までずっとある廊下をおじいさんにつれられ、また一つ大きな扉が目の前に出てきた。

気づくとおじいさんはコートを脱いでいた。

何やら落ち着き、リラックスした表情だった。


「好きなだけお食べ…」


そう言い扉を開いた。


目の間には所狭しと並べられた豪勢な食事。

大きな七面鳥、そして見たこともないような美味しそうな食べ物が数々と…。

そして…

真ん中には、少年が最も食べたかったであろう大きなケーキがあった。


「うわぁ〜!!」


少年は目を輝かせた。


「これ、全部食べていいの?!!」


「良いよ、良いよ、お食べ」


おじいさんがにっこりと温かい目をする。

そして、そんなのことを気にもとめず少年は席につきバクバクと食べ始める。

そうして後を追うようにおじいさんも席につき少年がおいしい、と言ったものをあとから食べる。

するとぽつぽつとおじいさんが一人話し始める。


「わしはなぁ…ある組織のまぁ会社の社長みたいなもんなんじゃ…妻も昔にもう死んでしまって息子も居ない…、

ただこうして子供と楽しく食べたかったんじゃ

しかしある日なぁ、努めていた一人の社員が亡くなってしまってのぉ…結構大事な仕事だったのじゃが…」


「美味しかったぁー!もうお腹いっぱい…!」


と、おじいさんの話しをよそに少年は、そう言った。


「おっとそうかそうか、じゃあ今日の分を…」


そういうとポケットから一つ金貨を出し少年に渡した。

金色に輝きそれが価値のあるもとだと少年にはすぐ分かった。


「え、いいの?」


「今日の仕事じゃ…」


すると突如、少年の視界がぐにゃりと歪んだ…。


「あ…あれ…?」


「私はのう…マフィアのボスなのだよ…だから、よく命を狙われてのぉ…

最近は毒味をしてくれているシェフも死んでのぉ…」


少年が意識を失う中ただ一人気にせずぶつぶつと喋っている。


「おや…どうしたんだい…?」


少年をおじいさんは上からじっくりと見つめた…。


「はぁ、またしても一人、社員を失ってしまったようだ…」


倒れている少年の手からさっき渡した金貨を取りコツコツとまた部屋から出ていった。

そして雪は一層降り積もり…。


「今日はまたさらに寒くなりそうだ…」

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