Worship
キュー〇ー、三分クッキング。
鼻歌交じりに、適当に具材をカットし、ミキサーにかける。途中でミキサーで歌を奏で始め、予めのものを使わずに本当に三分でスムージーが完成した。
「んーんー、美味いんじゃない?」
とルゼがキュー特製スムージーを飲んで頷く。見た目は、青緑色をしたドロドロとした、液体になりそこねた泥みたいだ。アムも飲んでみて、とキューは寛容に勧めるが、アムはそのスムージーの見た目からして、不味そうだ、と食わず嫌いをしていたのだった。
「何でアムは飲まへんのぉ?」
キューがアムの顔を覗き込む。アムは冷や汗をわざとかいて、キューに察しろと言わんばかりだ。それでも、キューが残念がる顔をすれば、アムは食わず嫌いを克服するくらい空気が読める男だ。
「何やこれ、めっちゃ美味いやんけ!はよ言うといてや」
一口飲んでからまた一口と、アムは食わず嫌いをしていたスムージーを飲み続ける。誰が見ても、相当気に入っていると分かるくらいに。
「俺が美味いって言ってたじゃん」
「お前、あんま好きやないって顔しとったやん」
ルゼはアムにツッコミを入れるも、アムはその鋭い着眼点でルゼの図星を突いてくる。ルゼはそれが事実だろうと嘘だろうと、キューに聞かれてないだけかが心配で後ろを振り向いた。けれども、もうそこにはキューはいなかった。
天使に連行され、天使が住んでいると思われる武家屋敷に着いた。武家屋敷にスーツは、やはり和洋強行という雰囲気しか受け取れない。江戸時代の異邦人みたいだ。それなのに、玄関にはデジタル式のセキュリティロックがかけられていて、テルさんは暗証番号をわざと言いながら、ボタンを押している。
「キュウ、ロク、イチ、イチ、ゼロ、ヨン。おっ、開いたね」
「僕に教えてどうするんですか?」
「君はここに住むことになるのだから、教えて当然だろう?」
「僕がもしスパイだったら?それでボスに……」
「君はそんなこと、絶対にしないさ。私は君の良心を信頼している」
今もこう言ってくれる天使を撃ち殺す機会を伺っているのに、何が良心だろうか?僕に良心なんてない、悪心からでしか動けない。それを証明したくて、あの人に認められたくて、不用心にも僕に背中を見せた天使に銃口を向けた。
無我夢中でトリガーを引くと、銃が活きのいい魚のように跳ね上がり、手首を思いっきりぐねった。当然、銃弾がテルさんに当たる訳もなく、僕の計画同様、絵空事へと消えてった。驚き振り返ったテルさんに、痛めた手で弱々しく握っていたグロックくんをいとも容易く奪われると、銃弾を地面めがけて四発撃たれる。撃たれた地面がめくれあがる。
「こんなもの捨てた方がいい」
弾丸を全て失った銃はスライドが引かれたまま、僕の足元に捨てられる。踏み潰しなよ、と踏み絵をさせられている気分だ。僕は悔しくて苦しくて、グロックくんを両手で救いあげて抱きしめて、ジャケットの左手内ポケットに入れた。その様子の一部始終を天使は見ていたのだけれども、見ないふりをして「じゃあ、行こうか」と何気なく言った。
屋敷の中は土足厳禁、襖に畳の和室がいくつもあって、心落ち着くい草の香りがした。居間に入ってみると、天使の方々が何やらノートパソコンやタブレットを使って、話し合いながら仕事をしていた。
「F-239地区、精神病患者が増加中だ。ラビ、対処頼む」
「わかってるけど、手回んないよ。俺が狂っちゃうよね?これ」
「そうですね、煙草休憩してきていいですか?」
「はあ?新入りが何言ってんだぁ?今日は何だか悪魔くさいしよぉ。これじゃあ、仕事も捗んねぇわ」
「というか、メルはどうした?」
「またサボりじゃねぇの?D-52地区、貧困格差の政策見積りできたから目通せ」
悪魔の方々に言っちゃあ悪いが、天使の方々のがよく働いている感があった。悪魔が朝起きてから何をするかと言ったら、ゲームして、喧嘩して、飯食って、喧嘩して、また賭け事に、取っ組み合い。ボスに「僕の仕事は何ですか?」と聞けば、「今はここのみんなと仲良くなることだね」と言われて、具体的な仕事をくれなかった。だから、
「すごいですね」
と感嘆の台詞を漏らしてしまった。
「そうだろう?私の従業員達は優秀なんだ」
と誇らしげに言われたが、ボスに外見が似ている貴方の内面は、ボスに似ても似つかないことがわかった。
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