ご主人がトイレに行っている間、こっそりバ美肉配信してやるニャ。

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

ご主人がトイレに行っている間に、バ美肉した結果……

 オレの顔をモーフィングして、バーチャルアバターがグラグラっと顔を動かす。

 

『あーあー聞こえるかニャ?』


 オレは猫なので話せない。

 キーボードで文字を起こして、それを文章読み上げソフトで読ませている。

 さらにその声をご主人が普段使っている『バ美肉』の音声に加工して、配信しているのだ。


『配信時間ニャのに、始まらないから変だと思ったニャね? ご主人は今、トイレでハッスル中ニャのだ』


 なんでも、食べ残した出前のモツ鍋を翌朝炊き直したら、火がちゃんと通ってなかったらしい。


『で、ピンチヒッターとして参加するニャー。オレはバーチャル配信者の猫間ネコマ 椎倉シグラの飼い猫で「プチ」ニャー』



 ご主人が配信中のときも、オレはよく邪魔をしていた。エサを忘れることが多いからである。キーボードの上に乗ったり方に飛びかかったりして、「エサよこせ」とアピールするのだ。

 オレが登場するときには、コメントも跳ね上がる。

 だから、オレはご主人の配信に貢献していると言ってよかった。

 

 そんなオレが、満を持して自分で配信をする。

 病気で動けないご主人の代わりに、オレが配信をしてやるのだ。

 ありがたいと思うがいい。


 コメントを見ると、「やだ語尾かわいー」とか、「挙動不審」、「あざとすぎて草」とか言われている。

 

『うるさいにゃい。あざといのは生まれつきニャー』

 


 投げ銭の勢いも、なんだかいつもと違う。

 普段はもっとおとなしいのに、金額がいつもの三倍はあった。

 安い順からワンランクずつ上げて金を投げつける、いわゆる「虹色投げ銭」まで飛び交っていた。

 これで、おやつのランクが上がる。


『オレはネコだから、簡単なゲームしか遊べないニャ。ご主人みたいに、コントローラーをグリグリして銃撃戦とかできないニャー。リバーシか麻雀なら遊べるニャ。この辺りは、ご主人の邪魔をしながら覚えたニャ』


 視聴者の動きが鈍いな。

 そういう『体』の配信と思われているらしい。


 違う違う。正真正銘、ネコが配信しているのだ。

 リモートを介して、ネコと戯れられるのだぞ。うれしいだろ?


『ネコだと思って侮っていると、痛い目を見るニャ』


 挑発してみたら、数名が麻雀で食いついてきた。


 操作ミスをしないように、丁寧に役を作っていく。



『わー。勝ちニャー。やったニャー。思い切ってドラを捨てて正解だったニャー』


 なんと、トップでアガってしまった。


 視聴者も挑戦者も、「ホントにネコかよ」「たまに『にゃ~ん』って言ってるからガチで猫だ」と、疑心暗鬼になっている。


 投げ銭の数も膨大だった。


 バ美肉やってもウケないご主人より、オレがやった方が稼げるなぁ。


 他にも、デジタルトレーディングカードゲームならできそうだ。

 ご主人のアカウントを借りて、プレイしてみた。


 しかも、マッチングしたのがご主人のご友人ではないか。

あまりにおどろいて、シッポがエンターキーをさわってしまった。

 

『え、このカードくれるの?』


 あー、これはご主人の大事にしていたレアじゃないか。

 しかし、シッポは無情にも『はい』を押してしまっていた。

 ホントはイケナイのだが……。


『ありがと! 大事にするわね!』


……いいか。この人の方が、大事にしてくれそうだ。

 

 

『おっ、稼げないご主人が帰ってきたニャ。本当の配信が始まるから、オレはここで落ちるニャ。また遊んでニャ~』

 

 バレないように、配信を切る。



 オレが配信して以降、ご主人は配信のたびに「ネコちゃんまだ~?」と言われるようになった。

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ご主人がトイレに行っている間、こっそりバ美肉配信してやるニャ。 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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