貧乏騎士に嫁入りしたはずが!
宮前葵
一章 騎士と猿令嬢
プロローグ 何がどうしてこうなった!
「皇太子殿下万歳!」
「セルミアーネ皇太子万歳!」
「帝国万歳!帝国に栄光あれ!」
物凄く大勢の人々が私たちの眼下で叫んでいる。その歓声、怒号と言って良い。そういう大きな声が重なり唸り、私たちが立っている塔を揺るがせている。いや本当にビリビリと揺れているのだ。比喩ではない。
熱気、喜び、あるいはある種の狂気が渦を巻くように押し寄せてくる。いやもう、その熱さを浴びせられているとのぼせそうよね。私はこの時、暑苦しさこの上無い正装を着せられていたから、本当にのぼせそうだった。いや、季節は冬なんだけど。
新皇太子様の立太子式 つまり未来の皇帝陛下のお披露目だからおめでたくて国民は喜んでいるのだろうけど、今回セルミアーネが立太子されたのは、先の皇太子様が亡くなったからだ。おめでたくは無いと思うのだが。
まぁ、庶民は皇族や貴族の事情なんて知らないよね。お祝い事に託けて祝い酒が飲めれば良いのよ。知ってる知ってる。私もつい先日まで実質庶民だったし。私も何にも知らずに酒飲んで騒ぎたかったよ。思わず遠い目になってしまう。
皇太子の正装に身を包んだセルミアーネが片手を上げて大観衆の歓声に応えている。まぁ、家の旦那様ははああいうのも似合うわね。ほうほうと他人事みたいにボンヤリ見ていると、大観衆からまた叫び声が上がった。
「皇太子妃ラルフシーヌ万歳!」
ラルフシーヌって誰やねん。て、あたしの事ですね。自分の名前忘れちゃいけません。いや、ここ何年もラルと縮めて呼ばれてたから、全部呼ばれると背中がむずかゆくなるんですよ。
て、皇太子妃って。
私が顔を引き攣らせていると、セルミアーネ、いや、旦那の事は私はいつもミアって呼ぶんだけど、その私の夫であるミアが微笑みながら私を促した。
「ほら、君も手を振って」
私はぎこちなく微笑んで機械仕掛けの人形のように手を振った。大歓声が更に怒涛のように盛り上がる。なしてあたしが手を振ったら盛り上がるん?あたしを誰かと勘違いしてるんじゃないでしょうね?
私は今度は冷や汗をダラダラ流しながらひたすら大群衆に圧倒されていた。私、確かに貧乏騎士に嫁入りしたはずなんだけど?なのに私が皇太子妃?なんで?一体全体、何がどうしてこうなった?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます