【KAC2022】 猫の手を借りたら……

東苑

妹と弟がお料理を手伝ってくれました



「ふっふ~ん♪」


 とある休日の夕方。

 私は台所に食材を広げる。

 じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、鶏肉……それから~。


「お姉ちゃん、なにかつくるの?」


 と、リビングにやってきたのは妹のうらら――うーちゃんだ。

 私の3つ下で春から高校生になった。


「クリームシチューだよ。楽しみにしててね」


「シチュー!? やったぁ!」


 万歳したうーちゃんだったけど、なぜかすぐにがっかりしたような顔になる。


「あれ、どうしたの、うーちゃん?」


「それ……」


 と、台所に並んでいる“しめじ”を指差した。

 うーちゃんはきのこ全般が苦手なのだ。なめこの味噌汁は食べられるんだけど……。


「大丈夫、シチューで食べたらおいしいよ~」


「そんなのうそだよ! きのこ食べた瞬間からもうきのこの味しかしなくなるもん! きのこに口の中支配されるぅ!」


「でもね、うーちゃん、きのこは身体にいいんだよ?」


「え~だ~! あ、そうだ! きのこで思い出しちゃったよ! この前、お弁当に焼き鳥つくってくれたとき!」


「あ! どうだった、おいしかった?」


「ねぎまのねぎ、きのこだった! わざとでしょ!」


「てへ♪」とちょっと舌を出しながら頭の後ろに手を当ててみせる。


「うーちゃんにきのこ食べて欲しくて、どうしたら食べてもらえるかなって考えたんだ~」


「もう! とにかくきのこ入れるのやめよ? きのこが入ってなければ完璧だから」


「ダメです。きのこ入れます。それだけは譲れません」


 両手を腰に当て、毅然とした態度で応じる。

 うーちゃんの健康のためにも心を鬼にしなくては。


「わたしのハーゲン●ッツあげるから! 期間限定の味のやつ!」


「え、えぇ~!? ハーゲン!? ど、どうしよ~……」


「……なにやってんの?」


 いつの間にか私たち三 姉弟きょうだいの末の弟、翔太しょうた――しょーくんもリビングに来ていた。

 しょーくんは春から中学生だ。中学生になったばかりだとまだまだ見た目は幼い感じである。これから男の子らしくなっていくのかなぁ。


「どうしたの翔太?」


「別に。水飲みに来ただけ。姉ちゃんたちは? 料理?」


「うん、クリームシチュー。でもうーちゃんがきのこ入れて欲しくないみたいで……」


「えぇ、きのこ入れてよ。そっちのほうがおいしいじゃん」


「あ、翔太、余計なことを!」


「はい、じゃあ賛成多数ということで~。きのこイン」


「止められ、なかった……! かくなる上は……お姉ちゃん、わたしもつくるの手伝うよ!」


「え、いいの? 珍しいね、うーちゃん」


「まあなんていうかさ、心境の変化ってやつ? わたし高校生になったし」


「うららねえ、料理とかできんの?」


「任せて! 学校でやったことあるから」


「贅沢は言わないから食べられるものつくってね。らんねえ、監視よろしく」


「こら翔太! どういう意味よ!?」


「大丈夫大丈夫~、最初は簡単なことからやろうね」


 いい機会だからうーちゃんに手伝ってもらうことにする。

 しょーくんも気になって見に来たので「はい」とピーラーを握らせた。


「じゃあうーちゃんにはしめじの下ごしらえしてもらおうかな」


「よりにもよってきのこ!? ……いや待てよ、そっちのほうが都合がいいか」


「うーちゃん?」


「ううん、なんでもない! で、どうやるの?」


「まずはしめじを手で裂きま~す。だいたい四つくらいになる大きさね」


「ど、毒が! 触ったら毒がうつる~!」


「お姉ちゃんが先に触ったからもう毒はないよ~」


「いやそもそも毒なんてないでしょ、らん姉!?」


「はいはい、次は石づき切ろうね~。きのこの下のほうが固くなってるでしょ、その場所。そこは切って捨てるの。あ、ダメダメ、捨てるのは石づきだけ。うーちゃん、きのこそのまま捨てないで~。しょーくん、お姉ちゃんも一緒にやるからゆっくりでいいよ~」


「お姉ちゃん、ちょっと手洗いしてくる!」


「は~い」「サボりだ、サボり」


「サボりじゃないし!」 


「早く行っておいで~」


 そんなこんなでいつもより賑やかな時間となった。


「あ~、クリームシチュー楽しみ~」


「手伝ってくれてありがと~、うーちゃん。おかげで助かっちゃった」


 後は煮込んで出来上がるのを待つだけとなったそのとき。

 私はふと気づく。


「う~ん、おかしいな。具が少ないような……」


「ね、ねえ!」


 とそこで、手伝いを終えて自分の部屋に戻ったはずのショーくんが戻ってきた。


「なんか俺の部屋にきのこ置いてあるんだけど!?」


「え、きのこ? あ……」


 そう言われてお鍋にきのこが入ってないことに気づく。


「あぁ気づかれた~! 翔太のベッドの下に隠しといたのに!」


 うーちゃんが頭を抱える。

『部屋にきのこ』事件の犯人はうーちゃんのようだ。

 なるほど、さっき少し席を外したときにしょーくんの部屋まで持っていったのか。


 かわいいかわいい猫ちゃんたちの手を借りたら、きのこが隠されてしまった。


「ねえ、お姉ちゃん? もう煮込んじゃってるしさ、今回はきのこなしってことで――」


「――しょーくん、きのこ持ってきて~」


「りょうかーい」「やめてぇ~!」


 その後しょーくんの部屋から戻ってきたしめじをできる限り小さく切ってシチューに投入。

 これならうーちゃんも食べやすいだろう。


 自分たちが具を切ったりしたからなのか、今日は普段よりうーちゃんもしょーくんも美味しそうにいっぱい食べてくれました。


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