母の相棒
簪ぴあの
第1話
昼休み。マナーモードにしてあるスマートフォンがブーッと低い音をたてた。
「美紀ちゃん、ひょっとして彼氏?」
「違うて、良美ちゃん。見んでもわかる。パパからやねん。」
「えっ、なんで?」
「ほら、見て。泣いてるやろ。」
「ほんまや。かわいらしいワンコ。これ柴犬?ウルウルしてるやん。」
「私がパパにあげたスタンプや。」
「へえ~、で、なんでお父さんから美紀ちゃんに、ワンコの泣きスタンプがきてんの?」
「ええから、見てみ。」
「美紀ちゃんのお昼は、お母ちゃん手作りの弁当でええな。おかず、何?パパはパンこうて食べた……何、これ?」
「パパがな、お母ちゃんをおこらせてしもてな、兵糧攻めにおうてはるねん。」
「兵糧攻め?美紀ちゃんのお父さん、お母さんにお弁当、つくってもらえへんの?何をやらかさはったんや?」
「あんな、うちのおばあちゃんが亡くなって、こないだ、三回忌が終わってん。それで、お母ちゃんが、遺品整理したいて……いや、もっと平たく言うと、おじいちゃんとおばあちゃんの部屋を空にしたいて言い出して……去年が、おじいちゃんの七回忌で、今年がおばあちゃんも三回忌。お母ちゃんにしたら、相当、待ったつもりなんやけど、パパはまだ、寂しいみたいやで。自分の親のもん、置いときたいて言うて……まあ、パパの気持ちもわからんこともないんやけど……」
「美紀ちゃんのお母さんにしたら、結婚してから、ずうっと、相手の親と同居で、ようやく自由になったて感じやわな。この際、年寄り世代の名残のあるもんは、捨てたいいうのが本音やろな。」
「まあ、うちのお母ちゃん、ドラマみたいな健気な嫁とちゃうかったけど。お母ちゃん、おばあちゃんに負けず劣らず気いがつようて、しかも、お母ちゃんもおばあちゃんも、お互いに自分が正しいと思てるから、まず、ごめんね、なあんて言わへん。私ら娘三人の手前、罵り合いはせえへんかったけど、二人とも、口、聞かへんから、空気が悪いのなんの……」
「そういう時、おじいちゃんとかお父さんて、触らぬ神に祟りなしって、逃げるばっかりやろ。」
「そうそう……」
職場で、こんなふうに、たわいもない話を安心してできる相手は、家庭環境がよく似ている良美ちゃんだけだ。
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