夢の中ならこんなことも出来る
サキュバスの故郷で行った幸せ制度は正式に受理された。
翆の方ではまだ家族に話はしていないものの、これで表にはまだ出せないが翆は二人のサキュバスと夫婦関係を結んだことと同義だった。
まさか高校生の段階でこのようなことになるとは思っておらず、翆としても受け止めはしたが少しばかり夢心地だったのは言うまでもない。
『よろしくね、あなた』
『おろしく旦那様』
こちらに帰ってからというもの、二人きりか或いは三人になると彼女たちは翆を揶揄うようにそう言ってくるようになった。
翆としても別に嫌ではないので苦笑で済んでいるのだが、彼女たちもしつこすぎない絶妙なラインを計っているのは流石だった。
「……ふぅ」
あれから早くも数ヶ月が経過し、かなり暑い時期になってきた。
翆の視線の先で沙希亜は舞や来夏と楽しそうに話をしているが、衣替えを終えて彼女のスタイルは更に分かりやすく見せられている。
舞も来夏も相当な美少女でありスタイルは良いのだが、やはり沙希亜と並ぶとどうしても醸し出される色気が違いすぎる。
「なあ翆、それで白鷺さんのお姉さんだっけ……どんな人なんだ?」
「……あ~」
そして当然とも言うべきか、凛音とも二人で会うことも多いのでチラッと見られることも少なくはない。
沙希亜の姉だからこそ親しくしていると伝えはしたが、沙希亜のような美人の姉だからこそある程度は気になるのだろうか。
「良い人だよ。俺にとって沙希亜と同じくらい大切な人だ」
「……ハッキリ言うんだな」
「大人って気がするぜ……」
勘が良ければ首を傾げられるかもしれないと思ったが、やはり沙希亜の姉である事実が大きかった。
沙希亜と付き合っているだけでも学校中からいまだに嫉妬の視線を向けられるというのに、更にその姉とも付き合っていると知られたら変な噂も立てられそうだ。
彼女たちはサキュバスであり人間の常識は当てはまらない、だがこれは知られてはならないことなので翆としても誤魔化すしかないのだ。
「翆君」
こういう時には決まって沙希亜は助けに来てくれる。
彼女は仁や道明のことを友人だと思ってはくれているのだが、やはりしつこすぎると不快には思うらしい。
「二人とも、あまり聞かないでくれる? 一応私の姉さんのことだから」
「わ、悪い……」
「そうだったな……ごめん翆」
そこまで謝ってもらわなくても大丈夫だと翆も苦笑した。
それから放課後ということで翆は沙希亜と共に校舎を出てそのまま真っ直ぐに彼女の家に向かう。
「本当に暑いわねぇ」
「あぁ。マジで暑いよ」
地球も最近は異常気象も多く、夏も異常なほどに暑くなった。
どうやら人よりも丈夫な体を持つサキュバスたちもこの暑さには嫌気が差すみたいで、沙希亜は少しでも風を服の中に入れるように胸元をパタパタと扇いでいた。
「なんかさぁ」
「うん」
「そうやって大きな胸の谷間が見えるの凄くエッチなんだけど」
「うん」
「……やっぱり大変そうだね」
「……えぇ、凄くね」
大きな胸の谷間に興奮をしないわけではないが、こうやって風で扇ぐ姿を見るとやっぱり熱が籠るのもあるだろうし色々と大変そうだ。
「翆君も女の子になれば分かるわよ?」
「なるほどなぁ。じゃあ来世にならないと分からないわけだ」
今の翆は男なので女の気持ちは分からない。
なのでもしも来世があったなら女に生まれ変わらないと無理だなと思って翆は笑ったのである。
しかし、何を思ったのか沙希亜は何かを企んだように笑ったのが気になった。
結局その笑みの意図は分からずに沙希亜の家に辿り着いた。
「凛音さんはまだか」
「えぇ、でもたぶん少ししたら帰るわね」
そう言いながら沙希亜は冷房のスイッチを入れた。
しばらくして冷たい風がリビングに満ち、どうぞと手渡されたチョコ味のアイスを楽しんだ。
「さっきの話なんだけど」
「うん」
沙希亜は制服のボタンを外して胸元を露出させた。
別にこれからしようという考えは見えないので、翆としても一瞬驚きはしたがそこまでのドキドキはない。
黒のブラジャーに包まれた豊満な胸を持ち上げながら、下乳の部分に指を入れるようにして沙希亜はこういった。
「ここに汗疹とか出来るとヤバいのよ。地獄のような痛みね」
「……あぁ股ズレみたいなもんか」
夏の時期だけではないが、運動をし過ぎたりすると本当に稀なことだが股ズレが起きることがある。
翆は中学生の時に少し肉付きが良かったので一時期悩まされたこともあったが今はもうなることはなかった。
「ちょっと動くだけで痛いよなぁ」
「本当よ。だから私もそうなるのは嫌だから注意してるの」
やっぱりこれは胸のある女性にしか分からない悩みだった。
それから凛音が遅れて帰宅し、翆を見た瞬間に嬉しそうにしながら抱き着いてきてそのまま過ごしていた。
「さてと、それじゃあそろそろ帰るかな」
「……もっと一緒に居たいわ」
「うん。もっと一緒に居たいよ」
切なそうにそう言われると翆としても足が止まってしまう。
しかし翆も家に帰らないといけないので、本当に残念だが今日はもう二人と別れなければならない。
「そうだわ翆君。夜を楽しみにしててね」
「え?」
「沙希亜から話を聞いたけど……うん、中々貴重な経験になるんじゃない?」
「……えっと?」
その時の二人が何を言っているのか分からなかったが、その言葉の真意はその夜に判明した。
ベッドの中で眠りに就いた翆だったが、沙希亜と凛音が現れたことですぐに夢の中だと気付いた。
サキュバスの本格的な力が発揮されるのは夢の中だが……そこで翆は自身の体に起きた変化をその目で見た。
「な、なんだこれ……」
困惑の声が漏れて出たが、その声もまるで女性のように高い。
サキュバスらしい姿になった二人はニヤリと笑いながら、凛音が背後から翆に抱き着き正面に立った沙希亜は鏡をその手に持っていた。
「……はっ?」
その鏡に映っていたのは翆ではなく、沙希亜と凛音に限りなく似た女の子だった。
顔立ちはもちろんだが、スタイルさえも二人の生き写しのように見え……しかも翆の反応に合わせるように鏡の中の子は表情を変化させている。
「夢だとこういうことが出来るのよ」
「そう、これが帰り際に言っていたことだね。どう? 女の子の体は結構違うでしょう?」
「……重い」
まず一つ目の感想として胸が重かった。
まだまだ脳はパニックを起こしているものの、まず明確に感じたのはそれだ。
「……不思議な感覚だな」
男の時と違い小さくて白い綺麗な手だ。
相変わらず凛音は背中に張り付いたまま、沙希亜は鏡を消して正面から翆に抱き着いてきた。
傍から見れば三人の美少女が抱き合っているような光景で興奮を煽りそうである。
「ちなみに……感じ方も女のそれよ?」
「けど流石に翆君は男の子だからしないよ。複雑だと思うから」
「……うん。助かる」
もしかしたら悪戯をされる可能性も考えて怖くはあったので安心した。
それから数十分ほど、夢の中で翆は女の体で過ごし本当に少しだが女性の体に付いて文字通り身を持って知ることが出来たのだった。
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