誰だお前は!!
「妹さんが美人ならお姉さんも凄く美人なのねぇ」
「ありがとうございます」
出会った早々、仲良くなった凛音と碧の様子に翆は安堵していた。
まあ沙希亜と付き合うことは伝えているので、その上で家に凛音を入れていたのはそれはもう驚かれた。
『アンタ……浮気したの!?』
確かに碧の立場なら誰だってそう言うだろう。
しかし彼女は沙希亜の姉であり、何より言い包めるのがとても上手だった。
「沙希亜は本当に翆君のことばかり話してて……ふふ、私も彼についてはとても良い子だなと頼りにしています」
「あらあら、翆ったらこんな風に言われて幸せ者ね!」
「……そうだね」
まあとはいえ、翆としては凛音とも関係を持っていることは当然両親に伝えるわけにはいかない。
いずれはその機会を持とうとは思っているが……やっぱり少しだけ怖い。
最低だと、あり得ないと、サキュバスとはそもそもなんだ、馬鹿なことを言うのはやめろと言われないとも限らないからだ。
「……母さん」
だとしても、凛音も翆にとって大切な一人だ。
ストレートに伝えることは出来なくとも、凛音が大切だということだけは伝えておこうと思った。
「沙希亜の姉だし凛音さんも俺にとって大切な人になったんだ。だから母さんも仲良くしてほしい」
どっちの意味にも取られる言葉だろうが、碧は嬉しそうに頷いた。
「分かってるわよぉ♪ こちらこそよろしくね凛音さん!」
「あ……はい! よろしくお願いします!」
こうして、碧にもしっかりと凛音を紹介することが出来たのだった。
それからは良い時間ということもあって凛音を家まで送ることになり、二人で家を出て歩いて行く。
「翆君のお母さんとっても良い人だね」
「そう思います。ただ……凛音さんも俺の大切な恋人の一人って言えれば良かったんですけど」
「流石にまだ早いかなそれは。いずれ事情も説明した時に話そうよ……受け入れてもらえるかどうかは別だけどね」
「はい……どんな答えをもらったとしても俺は凛音さんや沙希亜を手放したりしないですよ。それは絶対に約束します」
「……翆君!!」
がばっと思いっきり抱き着かれた。
周りにしっかりと人が居ないのを確認し、おそらくは気配すらも近くにないことを凛音は分かっているのだろう。
サキュバスとしての全てをさらけ出すように羽と尻尾が出現した。
「本当に翆君の前だけだね。本当の自分を出せるのって……あぁ好き、本当に好きだよ翆君。私のサキュバス生全部でこれからご奉仕して、もっともっと好きになってもらうからね?」
「……ちょっと怖い気もしますけど」
パタパタと揺れる羽と翆の体に巻き付く尻尾のおかげで、どれだけ凛音が翆のことを本気でそう思っているのかが良く分かる。
羽の動きは愛らしく尻尾の絡みつきは独占欲、そして言葉と向けられる視線は言葉通り一生を捧げる覚悟を示していた。
「怖いって酷いなぁ。サキュバスに愛されるのってそういうことだよ?」
「分かってますよ。だからその分俺だってお返しします」
愛されるだけではダメで、受け取るだけではダメだ。
そう思って翆は凛音の頬に手を当てた。
「……翆君?」
どこかいつもと様子が違う翆の様子に凛音は少し困惑して首を傾げた。
別に翆の中で何か大きな変化が起きたわけではなく、単純にいつもの自分より攻めてみようと思っただけだ。
「凛音さん、俺は絶対にあなたを手放しません。サキュバスだからとか、人間だからとか関係なしに……俺はもう、あなたを居ない未来を考えられない」
「っ……あぁ♪」
ビクンビクンと凛音は体を震わせた。
淫魔として伝えられるサキュバスだが、彼女たちに共通する特性には何度も言うが心から求める相手には全てを捧げる絶対の心がある。
つまり沙希亜にも同じことが言えるのだが、契約まで果たした何よりも大切な男にこのようなことを真剣に言われたらどうなるか……答えは簡単だ。
「……ふわぁ♪」
「おっと……」
凛音は体から力が抜けたように翆に体を預けた。
むぎゅっと潰れる豊かな胸の感触を感じながらも、蕩けた表情があまりにも可愛らしく翆は彼女の首筋に顔を埋めた。
「す、すいくぅん……♪♪」
あまりにも良い香りと感覚に翆もどこか浮かれていた。
とはいえちゃんと周りにも目を向けているが、どうにも凛音が瞬間的に人払いの何かをしているらしく本当に人の姿は見られない。
それからしばらく翆は凛音の感触をこれでもかと楽しんで離れた。
「……夢中になってしまった」
呆然とするように呟いた翆だが、サキュバスにとってそれは何よりも嬉しい言葉だった。
ただでさえ敏感になっていた凛音の体は今の言葉だけで更に強い震えを見せ、彼女は羽と尻尾が忙しなく動いでは凛音の心情を表している。
「凛音さん、立てます?」
「だ、大丈夫だよぉ……」
全然大丈夫そうではなかった。
しばらく凛音が落ち着くまでその場で待機し、ようやく動けるようになったところでまた歩き始めた。
「何と言うか……好きな人の言葉って凄いのね。私、声だけでってのは初めて」
「……サキュバスって色んな意味で凄いんだなって分かりました」
「まあ人じゃない時点でね」
「ですね」
人外というだけでも翆からすればファンタジーな要素だ。
今となっては身近なファンタジーになってしまったが、それでも長い夢を見ているのかと思えてしまうほど。
それだけこの世界は現実であり、漫画やアニメのようなものはフィクションでしかないからだ。
「そういえば……」
「どうしたの?」
「サキュバス以外にも居るんですか?」
それはポッと出た言葉だった。
サキュバスという存在が居るのであればそれ以外の何かが居ても変ではない、そう思って聞いてみたがどうもそれはないらしかった。
「見たことないし聞いたこともないからね。たぶんサキュバスだけだと思うよ」
「なるほど……」
「もしかして翆君……私と沙希亜だけじゃ満足できないとか?」
「凛音さん、俺そこまで強靭じゃないっす」
分かってるよと凛音は笑った。
最近は二人の影響で翆が勝ち星を上げる時も多くなったが、全く疲れないわけではないのだから。
それに満足するとかしないとかそんな次元の話ではない。
翆にとってこれから先心から愛するのは沙希亜と凛音だけだと思っている。
「あ~あ、本当に毎日が幸せ過ぎてダメになっちゃいそう。私も沙希亜も気合を入れないと翆君にダメにされちゃいそうだ」
「その言葉そっくりお返ししますよ」
翆にとってそれは逆だ。
逆に翆の方が彼女たちにダメにされそうな気がしている……否、されかけているようなものだ。
翆にとってサキュバスとは男の精気を吸い尽くす存在ではなく、男をダメにして溶かしてしまう存在だ。
「一番簡単なのはみんな揃ってダメになればいいかな」
「あぁ……開き直ればって感じですか」
翆と凛音は笑い合い家に着くのだった。
そして、家に着いた翆と凛音の前に見たことがないサキュバスが縄に繋がれているのを見る羽目になるのだった。
「も、もう許してぇ……お願いだからぁ!!!!」
「ダメよ。もっと焦らしてあげる」
「いやああああああああああっ!!」
拷問のように責める璃々夢とドン引きして見つめている沙希亜が居た。
名も知らないサキュバスの体の下は凄いことになっており、頭から水でも被ったのかと言わんばかりにびしょびしょだった。
「……あ、男ぉ……♪♪」
「うふふ~♪ 動けると思ってるの? 安心しなさい、あなたのそこには何も満たされるものは入ってこないからね?」
「……………」
真っ青を通り越し、大粒の涙をサキュバスは流し始めた。
「……何事?」
「……まあ好き勝手しようとした罰かしらね。ねえ翆君、サキュバスにとって寸止めって地獄なのよ」
「……へぇ」
どうやら、あのサキュバスは璃々夢の手で地獄を味わっているらしきことだけは理解できた。
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