その店はやがて、猫に支配されていく
真偽ゆらり
借りるほど忙しくなる猫の手
「手が足りない……」
店番を任されたがソシャゲのイベントで忙しくて猫の手も借りたい状況だった俺は、苦肉の策として本当に猫の手を借りることにした。
我が家の物怖じしない太々しいお猫様に日当猫缶三つで店番を任せ、イベントの周回マラソンをひた走る。うちのお猫様は人が寄って来ると気が抜けた低い声で鳴くが、鳴くだけで逃げも隠れもしない。だから、うちのお猫様の声がした時だけイベント周回を中断すれば良いはずだった……翌日を迎えるまでは。
翌日、うちの田舎にこれほどの人がいたのかと思える程の大盛況を迎えていた。店を開けた時点ではまだゲームのイベント周回をする余裕があったが、今はもうそんな余裕は無い。なんとか昼休みで一旦店を締めるまで回したが何か策を練らないとイベントを完走できなくなる。
俺一人で店を回している状況だったので昼休みで店を締めるなんて言い訳が通ったが、家族の誰かと二人以上で店を回していたら休み無しで夜まで営業する羽目になっただろう。
応援を呼ぼうにも親父とお袋は俺に店番を押し付けて旅行中だから呼んだところで午後の営業に間に合うわけがないし、姉貴は部活優先で妹は俺以上に店を手伝う気が無いから呼んでも来やしない。
俺が呼んで来るのはせいぜいご飯の時間と勘違いした我が家の猫達だけ……いや、昼だしご飯あげないと。
「お前らは良いよな〜こっちはマジで猫の手も借りたいってくらい忙しいってのに」
声をかける猫を間違えた。
猫お嬢は塩対応系お嬢様な猫だから反応してくれない。って、塩対応?
「いい事思いついた」
お猫様は律儀にも気の抜けた声で反応を返すせいでSNSで評判になり客を呼んだ。それなら塩対応の猫お嬢なら?
猫の手一つで足りないなら猫の手を二つ借りればいいのだ。はいそこ、猫は四本足だから数が違うとか言わない。
猫お嬢とは高級猫おやつのまぐろ味で交渉はまとまった。これで勝てる。
お猫様の隣に猫お嬢を座らせて午後の営業を再開する。
客が五割り増しで増えた。
何故だ……目紛しく店を回す中、黄色い声が上がる猫お嬢の一角を見て理解する。
報酬が効き過ぎた。
「塩対応? なにそれ?」と言わんばかりに客を手招きしたり可愛らしい声を出す猫お嬢。
その日、真っ白に燃え尽きるほど働いた俺は閉店後にイベントを走る事はできなかった。
さらに翌日。
今日も俺が店番をしなければならず、客からの無言の圧力でお猫様と猫お嬢を引っ込めるわけにもいかない。おまけに寝坊したせいで開店前にログインボーナスを貰う事もできなかった。
こうなったら秘密兵器を出すしかない。
構ってちゃんなお猫坊と人懐っこい猫乙女に客の対応を任せるとしよう。猫用ケーキを後で買ってやるから頼むぞ?
猫の手倍プッシュだ!
客足も倍になった。
その店はやがて、猫に支配されていく 真偽ゆらり @Silvanote
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます