城ケ崎先輩の役に立たない猫の手アイデア

タカば

城ケ崎先輩の役に立たない猫の手アイデア

 うちの大学には変な先輩がいる。


 名前は城ケ崎芽衣子。

 一年先輩の彼女は、そこそこの頻度で大学にやってくる、そこそこ不真面目な学生で、結構な頻度で俺についてきて、そこそこの時間まで俺の部屋にいりびたる。

 そして、毎回独自のアイデアを披露するが、だいたい役に立たない。


 実に面倒な先輩である。


「真尋くん、いいことを思い付いたぞ」

「……」


 そろそろ日も沈みかけようというころ。

 いつものように、人の家のこたつでごろごろしていた城ケ崎先輩がそう言った。


「私が君の手伝いをすればいいんだ!」

「……」


 いつもなら、俺が彼女の発言意図をくみ取ろうとするタイミング。しかし俺は無言を通した。


「真尋くん、返事くらいしたらどうだ。私が君を手伝おうと言っているんだぞ? ありがとうと言う場面じゃないのか」


 返事をしないどころか顔も向けない俺に、城ケ崎先輩は抗議の声をあげる。見えないけど、この感じだと口をとがらせていることだろう。

 しかし、今の俺に城ケ崎先輩の相手をしているヒマはない。


 なにしろ、レポートの締め切りは明日なのだから。

 しかも必修科目である。単位を落としたら城ケ崎先輩と学年が離れてしまう。


 そもそもなんなんだこのレポート。今日の実習実験で作成したデータを元に翌朝報告書を出せとか、提出期限が短いにもほどがある。せめて数日猶予をもたせるべきじゃないのか。


「……手伝うって言っても、先輩は学年も学部も違うでしょう。何してくれるっていうんですか」


 このレポートの完成に必要なのは、実験データと専門知識だ。

 勉強している分野の違う城ケ崎先輩では何の助けにもならない。


「そ……そうだな……データ整理とか?」

「以前それをお願いしたら、入力箇所を1列ずつ間違えてて、結局やりなおしになりましたよね?」

「じゃあ生活の手助け……掃除とか、洗濯とか」

「別に1日くらい放っておいても問題ありませんよ」


 いつ何時一つ上の先輩が乱入してくるかわからないから、部屋は大体片付いているし、汚れ物もマメに処理している。


「腹が減らないか? 何か作ってやるぞ」

「そう言って、フライパンを真っ黒こげにしたでしょう。洗い物の手間が増えるのでやめてください」

「なら……」

「あと、コンビニの買い出しも不要です。明日の朝くらいまでなら、適当につまむくらいの食糧はあります」

「くっ……スキがない……!」


 忙しくて猫の手も借りたい、ということわざがある。

 だが、どんなに忙しかったとしても、絶対に借りてはいけない猫の手がある。それが城ケ崎先輩だ。

 過去何度その猫の手を借りた結果、余計な仕事が増えて痛い目を見たか。

 先輩に頼み事をするのは、その後大失敗してもフォローできる余裕がある時だけだ。


「ぐうっ……何故だ! 困っている後輩を助けたいというのに、何も手段が残されていない!」


 そう思うのなら、明日の朝までそっとしておいてくれませんかね。


「私は猫の手にもなれないというのか! にゃああああ!」

「あ」

「な……なんだ?」


 俺はぱっと顔をあげた。

 猫っぽい変なポーズで城ケ崎先輩は固まっている。止まったついでに、そこそこたわわな胸がたゆんと揺れた。

 俺はスマホを起動させるとカメラを城ケ崎先輩に向けた。


「今の、もう一度お願いします。録画するので」

「……にゃー?」


 さっきの奇声とは趣は違うけど、これはこれで。


「ありがとうございます。ちょっと元気出ました」

「い……今ので? 何故だ、どこにそんな要素があった?!」

「というわけで、充分手伝ってもらいました。明日の午後なら構ってあげますから、今日のところはお引き取りください」

「わかった。……今の動画で何故元気が出たのか、明日じっくりと説明してもらうぞ」

「はいはい」


 城ケ崎先輩は、納得してない顔で部屋を出ていった。


 今日も城ケ崎先輩のアイデアは、役に立たない。

 ……が、「にゃー」動画にはそこそこ癒された。




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