第55話 特殊スキルを持つ家
シモンと一緒に兄上に報告に行くと、
俺の伝言を護衛から聞いて心配していたようだ。
兄上が学園に向かおうとしていたのをケインに止められていた。
もう少しちゃんと伝言しておけばよかった。
「で、どういうことなんだ?
ジョーゼルから緊急事態だから遅くなると連絡が来たと思えば、
ルチアがぐるぐる巻きにされて届けられるし…。」
「いや~今日あたりハインツ様に報告しようと思ってたんですって。
ルチア、おかしくなってますよ~って。
で、保護してしまおうと思ったのに、その前にジョーゼル様に突撃しちゃって。
しかも、そのままアンジェ様のところに襲撃しちゃうから~。
まいった、まいった。」
「…シモン、もう少し早く報告に来てくれないか?」
「ごめんなさい~俺も予想外だったんですよ~。」
「はぁ…で、ジョーゼルのほうは大丈夫だったのか?」
シモンのご機嫌な様子に詳しい説明をあきらめたのか、俺のほうに聞いて来た。
ルチアが俺に声をかけてきてからのことを兄上に説明する。
説明が終わると、兄上は大きく息を吐いた。
「大丈夫かと聞かれると…大丈夫ではなかったですね。
あまりのことで言い返せなくて。
とりあえず近くにいた者が誤解しないようにはしましたが。
あれは…最初の対応に失敗しました。」
「あぁ、うん。ジョーゼルは意外と口下手だよな。
失敗してしまったのは仕方ない。
次からは途中で止めるなり、護衛に止めさせるなりするように。
令嬢だからといって、話を聞く必要は無いんだよ?」
「はい、兄上。気を付けます。」
「うん、で、シモン。
ルチアはどうする気だ?
教育したとしても、使い道がないぞ?」
「あれはもう教育するのも無理ですね~。
自分のスキルにおぼれたんですよ。
力があるからと小さいころから使いたい放題だったんでしょ。
ナイゲラ公爵家が小柄なものに甘いことも手伝って、
ルチアが好き勝手するのを誰も止めなかったみたいですしね。
ある意味、あれがすべての元凶です。
回復しなきゃそのままフランツ様と一緒に治療。
回復したとしても、スキルは封じて修道院ってとこですか。」
「オベール侯爵家への説明はどうする?」
「あの家も独特だから~。
ルチアを監視して気が付いたんですけど、あのスキルは侯爵家のものですね。
それなのに放置しているって、侯爵は妻にしか興味ないってホントなのかと。
たぶん、その妻も侯爵がスキル使って手に入れたんだろうし。」
「あぁ、なるほど。オベール侯爵夫人とナイゲラ公爵夫人は、
リスカーナの二輪の薔薇って呼ばれていたそうだよ。
アジェ伯爵家の美人姉妹って、有名だったらしい。」
「その妻を娶るのに必死で、他は考えられなくなっちゃったんでしょうね。
ルチアが一人娘なのに好き勝手してたのは、
侯爵家に居場所がなかったからかもしれませんね~。」
「…まぁ、それでもルチアが力を使った結果だろう。
とりあえず回復出るかどうか、やってみてくれ。」
「はぁい!」
治療するのは他の者が担当するのだろうが、
それでもシモンが手伝わなければルチアの頭の中は覗けない。
身体は健康でも、スキルにおぼれたものを回復させるのは難しい。
特殊スキルが良いのか悪いのか、使い方次第と言われるのは、
使いこなすためにはかなりの努力を必要としているからだ。
俺の毒耐性スキルだって、鍛えなければ軽い毒に耐えられる程度でしかない。
キュリシュ一族で毒耐性スキルを持って生まれたものは、
分家であったとしても本家で過ごすことになる。
幼いころから毒を与えられ続け、強い毒でも耐えられる身体にしていく。
普通の人間なら致死量の毒であっても毒耐性を獲得していくが、
毒を飲んで苦しいことに変わりない。
スキルがあるため死ぬことは無いが、毒が消えるまで苦しみ続ける。
誰も助けてはくれない…一人で耐性を獲得するまで部屋に閉じこもるだけ。
キュリシュ侯爵も母上も弟もそうだ。
苦しいのは俺だけじゃない。
先に耐えたものがいるから、耐えられる。
キュリシュ侯爵が父で無かったとしても、この絆は普通の親子よりも強いと思う。
…ルチアもオベール侯爵が力の使い方を教えていたなら。
そう思ったところで気が付いた。
もしかしたら、オベール侯爵も力の制御ができないのかもしれない。
結婚してからは社交界に顔を出すことなく、
夫人と二人だけで過ごしているという噂のオベール侯爵。
力におぼれているのは、ルチアだけじゃないかもしれない。
「兄上、オベール侯爵家には跡継ぎがいなくなりますが…。」
「そうだな。だが、そのほうがいいのかもしれない。」
「え?」
「力を制御できずにいる家を存続させるのは危険だ。
…このまま爵位を返上させたほうがいいだろう。」
「それもそうですね…。」
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