第48話 フランディ国へと


「ナイゲラ公爵。どちらかを選ぶがよい。

 三人とも処刑か、三人を他国にやるか。

 恩情は十分にかけた。これ以上は譲る気はない。」


「…フランディ国へと嫁がせます。」


がっくりと肩を落とし、小さな声でナイゲラ公爵は答えた。

この十数分のうちに、ナイゲラ公爵の大きな体が縮んだように見える。

どうしようもないとわかっているがミリアを他国へ嫁がせたくない、

その思いは伝わっているが誰も助ける気はなかった。


「ふむ。では、そうしよう。

 あぁ、ミリアにはもう二度と会わせる気はない。

 公爵にも夫人にもだ。」


「どうしてですか!!せめて最後に会わせてください!」


「だめだ。会ったら、ミリアに助けてお父様って泣かれるだけだぞ。

 そう言われたら、どうする?ミリアを助けるのか?

 下手なことをすれば、公爵も夫人も下の娘も処刑で、

 ナイゲラ公爵領は無くなることになるぞ。」


「………わかり…ました。」


ナイゲラ公爵はうつむいて、何とか声を絞りだすように答えた。

自分の弱さは理解しているのだろう。

ミリアに会って、お父様助けて、ここから出してと言われでもしたら、

その場で暴れて取り押さえられることになるかもしれない。

そうなったらもう公爵も反逆罪に問わなければいけなくなる。

公爵の命はともかく、自分の行動一つで妻ともう一人の娘の命まで危なくなる。

さすがにそこまで愚かではなかったようだ。


アンジェの件を何も知らなければ、

ミリアをフランディ国の側妃として嫁がせるのは普通のことだ。

今のリスカーナ国で一番身分が上で婚約者がいないのはミリアだからだ。

ジョーゼルと婚約解消したことで、この先新しい婚約者が見つかるとは思えない。

アンジェに乱暴したことで学園も休学になってしまっている。

フランディ国へ行って新しい人生をやり直せるのなら、悪くないと思われるはずだ。

…本人がどう思うかは別として。


話し合いは終わり、ナイゲラ公爵は近衛騎士数名と共に屋敷に帰っていった。

無事にミリアがフランディ国へ嫁ぐまで、ナイゲラ公爵家は監視下に入る。

納得はしたようだが血迷うことも考えられる。

両脇を近衛騎士にかためられ、ナイゲラ公爵はうつむいたまま帰っていった。




「いつ思いついたんだ。フランディ国へ嫁がせるだなんて。」


「そうですね…このまえフランディ国王が来た時からです。」


「はぁ?最初じゃないか。」


元王妃を迎えに来た際、驚いたことにフランディ国王が自ら謝りに来ていた。

その時の話し合いに俺も参加したのだが、

フランディ国王は異母妹のジャンヌをこの国に押し付けていたことを、

長年迷惑をかけて申し訳ないと思っているようだった。


お詫びの一つとして提示されたのが、

もしリスカーナ国に置いておくのが難しい令嬢がいたら、

フランディ国で引き取るというものだった。

側妃でも愛妾でもかまわない、幽閉しておくのが難しい場合は、

フランディ国のほうで面倒をみるとの申し出だった。

その時にもうすでに暴走して謹慎していたミリアを思い出し、

次に何か起きた時はフランディ国へ送ろうと決めていた。


「フランディ国とは対等の立場でつきあいたいのですよ。

 いつまでも引け目があるままでいるのは、あちらもやりにくいでしょう。

 なので、さっさと借りを返してもらって、終わりにしたいのです。」


「あぁ、そういうことか。

 この後あの国王とつきあっていくのはお前だからな。

 確かにいつまでもジャンヌのことを引きずっていてはやりにくいか。

 わかった。この件はお前に任せよう。自分でやる気なのだろう?」


「もちろんです。ミリアは…しっかり教育し直してから送ります。

 フランディ国王にはどんな女でも気にしないで送っていいとは言われましたが、

 負担が少ないほうがいいでしょうから。」


「そうか。任せたぞ。」


「はい。」


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