第45話 話し合い


学園でにぎやかに卒業パーティーが行われている頃、

王宮の謁見室にはナイゲラ公爵が血相を変えて飛び込んできていた。


謁見室では父上と宰相と俺が話し合いをしているところだった。

ナイゲラ公爵は話し合いが終わった後で呼び出す予定だったが、

ミリアが牢に入れられたことを知って慌てて確認に来たようだ。


「陛下!どういうことですか!?

 どうしてミリアが牢になど!」


熊のような大きな体格をしているが、性格は穏やかで声を荒げるような人ではない。

その公爵が挨拶もなしに取り乱して叫んでいる。

それだけミリアのことが大事なのだろうが、公爵は大事にする方法を間違えた。


「どうしてだと?それは当然、ミリアが罪を犯したからだ。

 何の罪もないのに牢にいれたりはせぬ。」


呆れたように言い返す父上に、それも仕方ないと思う。

謁見の許可を求めもせずにこの部屋に飛び込んできたのだ。

いくら公爵といえども、無礼すぎる。


「そんな!?罪を犯しただなんて!

 謹慎を破って学園に行ってしまったのは悪いとは思いますが…。

 牢に入れるのはひどすぎます!」


「はぁ?」


もしかして謹慎を破って学園に行ったことだけで牢に入れられたと思っている?

いや、あれも父上からの指示だったのだから、破ったら処罰対象ではあるのだが。

父上がナイゲラ公爵の相手をするのが面倒だという顔になっているのを見て、

俺が代わりに説明することにした。


「ナイゲラ公爵…なぜミリアが牢に入れられたか知りたいか?」


「ハインツ様、どうしてですか?」


「まず、ミリアが今日何をしたのか説明してやろう。

 ミリアは女性騎士二人を連れてナイゲラ公爵家を出た。

 向かった先は卒業式典が行われていた学園だ。

 学園についたミリアたちは王族休憩室前にいた護衛騎士二人に薬をかがせ、

 眠らせた後で護衛騎士の服二着を盗んだ。」


「え?」


「盗んだ護衛騎士の服を女性騎士に着させ、

 男性に見えるようにかつらをつけて護衛騎士になりかわった。

 その後、王族休憩室に来たアンジェを襲わせようとした。

 女性騎士を男性騎士に偽装して、アンジェの純潔を奪おうとしたんだ。

 その証拠に、女性騎士は男性器を模した器具を隠し持っていた。」


「はぁぁ??」


何を言われているのかわからないといった顔のナイゲラ公爵に、

理解が追い付いていないことも承知で話を続ける。

どうせあとで書面で処罰を渡さなければいけないのだし、

ここで理解できなくても何とかなるだろう。



「まず、陛下に命じられていた謹慎を破る。無許可で学園に侵入する。

 護衛騎士に危害を加える。護衛騎士の服を盗む。

 護衛騎士に成り代わる。立ち入り禁止の王族休憩室に入り込む。

 第二王子の婚約者であるアンジェを無理やり押さえつける。

 そして、その純潔を奪おうとした。

 さぁ、どれだけの罪を重ねたと思う?」


「…そんな…ミリアがそんなことするわけ…。」


信じられないのはわかっているが、言い逃れはできない。

なぜならば…


「その一部始終を、俺とケインが見ていた。」


「は?」


「すべて、事実ですよ。ハインツ様が説明した通りです。

 王子二人とケインが守ってくれなかったら、今頃娘はどうなっていたか。

 同じ公爵令嬢だというのに、どうしてそんなことができるのか…。

 ナイゲラ公爵は…子育てを失敗しましたな。」


「ルードヴィル公爵…申し訳ありません…。」


宰相に向かって頭を下げるが、宰相はそちらを見もしない。

まぁ娘がそんな目にあわされたなら、そうなるのもわかる。

無事だったからといって、許す気にはならないだろう。

前回のアンジェの左腕を傷つけられたことも許していないのだし。


「実行するのと、計画しただけでは罪の重さが違う。

 途中でやめるのであれば、それなりに温情をかけるつもりでいた。

 だが、ミリアは最後までやめなかった。

 これ以上させたら、アンジェが傷つくところで止めた。

 アンジェには傷一つついていないが、それは俺たちが止めたからだ。

 止めなければアンジェは傷物になっていただろう。」


「……。」


さすがにミリアが犯した罪の重さを理解し始めたのか、

ナイゲラ公爵の身体がぶるぶると震えはじめた。

褐色の肌が薄くなったように見える。血の気がひいているのだろうか。


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