第22話 ミリア様のお願い
「あの、アンジェ様とお話ししたくて…。
二人で話せませんか?」
二人で?やはりミリア様は人目を避けたいようだ。
もうすぐ授業が始まってしまうけれど、少しなら大丈夫だろうか。
かまいませんと返事をしようとしたら、その前にダイアナに止められた。
どうしてと思っているうちにユミールが前に出て、ミリア様へと応対する。
「ミリア様、何か御用ですか?」
「いえ、あの、話があるのはアンジェ様だけです。」
「私たちは第三王子様から、
アンジェ様をお一人にしないようにと命令を受けております。」
ええ?そんなの知らないのだけど!?
思わずダイアナを見ると、こちらだけに見えるようにくちびるに指をあてた。
二人がそうするのであれば何か理由があるに違いない。黙って小さくうなずいた。
「え…ジョーゼル様が?」
「そうです。アンジェ様は第三王子様の婚約者ですから。
狙われる可能性もあります。けっして一人にすることのないようにと。
ミリア様が用があると言うのであれば、ここで話してください。」
「ここで?」
「ええ。わかっていると思いますが、二学年はもうすぐ授業が始まります。
授業に遅れるわけにはいきません。
…何も話が無ければ、私たちは教室に戻りますよ?」
毅然とした態度のユミールに、ミリア様は戸惑っているようだった。
だが、ユミールが言っていることは本当のことだ。
これからどこかに移動して話を聞くような時間はない。
用事があるのなら、早く話してもらいたかった。
それなのに、ミリア様は口を堅く結んだままだった。
「無いのであれば行きますね。」
ユミールがそう言って背を向けた瞬間、
慌てたミリア様は私へと叫ぶように訴えてきた。
「アンジェ様…お願いします。
ジョーゼル様を返してください。
彼は私の婚約者です!!もう四年も婚約者だったのですよ!?
こんな風に別れさせるなんてひどいです!!」
「…え?」
今聞いたことが信じられなくて、思わず聞き返してしまった。
ジョーゼル様を返してください?別れさせるなんてひどいです??
あぁ、やっぱり理解できない。
ダイアナとユミールを見ても、目を大きく開いて驚いているのがわかる。
二人ともが信じられないと言った顔でミリア様をまじまじとみている。
私たち三人が何も言わなかったからか、ミリア様の話は続いていた。
「私がジョーゼル様と婚約したのは十二歳の時でした。
それからずっとお慕いしていたのです。
いいえ、婚約者になる前からずっとお慕いしていました。
それなのに…引き裂くなんて…。」
ぽろぽろと涙をこぼしならも言い続けるミリア様に、周りの者たちもぎょっとする。
公爵家の令嬢がこんな人が多い場所で泣き始めたこともそうだが、
第三王子でもあるゼル様と婚約した私へ向かって彼を返してとお願いしている。
王命だったミリア様との婚約を解消したことは異例ではあるが、
ゼル様と私の婚約も王命である。
それに従わないような言動を人前でするとは…。
どう考えても醜聞以外の何物でもなく、これはミリア様の傷にしかならない。
「…ミリア様、もう決まったことですのよ?」
どう考えてもミリア様のためにならないと思い、優しく諭すように話す。
だが、ミリア様は嫌々と頭を横に振っては、返してくださいと繰り返した。
…どうしよう。ダイアナとユミールも軽く首をふって降参の合図をする。
これは無理やりにでも話を切り上げて教室に戻ろうとしたところで、
ミリア様に左腕を強くつかまれた。
「え?」
「アンジェ様!逃げないでください!!
ジョーゼル様を返してくれるまでは逃がしません!」
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