第21話 ミリア様

それからの一週間はゼル様とケイン兄様が話していた通り、

婚約を打診する手紙が貴族間を飛び交い、学園内でもその話題が出されるようになっていた。


当然、私たち三人の話題にも婚約の話が出ていた。


「ねぇ、ダイアナとユミールにも婚約の話は来ているの?」


金髪碧眼で華やかな美人のダイアナと凛とした綺麗さを持つ銀髪緑目のユミールは、

夜会に出るたびにダンスを申し込む列ができるほどの人気だった。

一緒にいる私が誰ともダンスを踊れないのを知っているからか、

二人がその誘いを受けたことはなかったのだが。


「話は来ているようだけど、お父様は自分で選んでいいと言ってくれたの。

 今度の夜会ではダンスの誘い、受けてみようかしら。」


「でも、早く決めなければ多くの令息も婚約してしまうのではなくて?」


ダイアナのお父様が好きに決めていいと許可を出したとしても、

もしダイアナが気に入った方がすでに婚約してしまっていたら困らないだろうか?

心配でそう言ったら、ダイアナがいたずらが見つかったような顔で笑った。


「きっと大丈夫よ。」


「そうなの?それって、お相手をもう決めているってことなの?」


「ふふ。まだ内緒よ?」


笑いながらくちびるに指をあてて片目を閉じるダイアナに、

これ以上は聞いても無理かなと思う。

そもそも婚約が決まるまでは友人だとしても話すことはできない。

もし何かあって途中で白紙になることになれば、相手の家にも失礼になる。


ダイアナのことだから決まったらすぐに教えてくれるに違いない。

この様子だと、そのお相手はダイアナが気に入っている方なのだろうし。


「ダイアナはこれからなのね。

 うちは…もう決まっているの…。」


「本当!?どなたなの?」


決まったと言いながら微妙な顔をしているユミールに首を傾げそうになる。

もし相手が気に入らないのだとしたら、

気の強いユミールならもっとはっきり嫌そうにする気がするのに。


「あのね…うちは辺境伯でしょう?

 私と妹しかいないから婿をとることになるのだけど…。

 騎士団もあるから、剣の腕前も必要になるのよ。

 実は…お相手はリュリエル様なの。」


「ええ?リュリエル様なの?」


「いつかは結婚するんだと思っていたけど、意外と早かったわ。

 リュリエル様が学園を卒業したら、

 すぐに結婚してリュリエル様は辺境伯領に行くことになるの。

 私は卒業までは王都にいるけど、人妻になるのよね~。」


「そうなの?

 もしかして、前から決まっていたの?」


「そうよ。リュリエル様、お祖父さまの弟子なの。

 小さいころからよく会っていたけれど、

 きっとその頃から婿になるのが決まっていたんだと思うわ。

 幼馴染みたいなものだし、仲は悪くないの。

 リュリエル様ならうちの騎士団もうまくまとめられると思うし。」


たいしたことない風に話すけれど、ユミールの耳が赤くなっているのに気が付いて、

ダイアナと目を合わせて頷いた。

ユミールはリュリエル様のことが好きで、

この婚約も本当はうれしく思っているに違いない。

素直になれないユミールの可愛らしい一面を見た気がした。



「あ、もう昼休憩の時間が終わるわ。教室に戻りましょう?」


実際にはもう少し時間の余裕はあるが、そろそろ一学年の休憩の時間になる。

カフェテリアの席に居続けてしまえば邪魔に思われてしまうかもしれない。


外に出ようとすると、一学年の者たちがカフェテリアへと入ってくる。

邪魔にならないうちに席を立ったことにほっとする。


カフェテリアから廊下へと出ると、誰かに呼び止められた。


「あの…!アンジェ様!」


呼ばれたほうへ顔を向けると、そこにいたのはミリア様だった。

泣きはらしたような顔で立っているミリア様の近くには誰もいない。

いつもなら他の令嬢と一緒に行動していたはずなのに、

一人でカフェテリアに来るなんて、どうしたんだろう。


「ミリア様、どうかしました?」


「あの、アンジェ様とお話ししたくて…。

 二人で話せませんか?」


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