第6話 婚約解消?


ジョーゼル様との婚約を解消させるなんて、相手から恨まれても仕方ない。

ミリア様から非難されるのも覚悟しよう、そう思っていたけれど、

陛下とジョーゼル様から聞いた話だとミリア様も嫌がっている様子。

それなら婚約解消しても揉めなくて済むかもしれない。


応接室でしばらく待ったあと、謁見室から呼ばれて再び入室すると、

そこには困った顔のナイゲラ公爵と泣きそうな顔のミリア様が待っていた。


二人とも金髪でナイゲラ家特有の色なのか琥珀色の瞳をしている。

体格はまるで違う二人だが、色は父親から受け継がれたようだ。

ミリア様とは何度か王宮のお茶会で一緒になったことはあるが、

派閥が全く違うためにそれほど親しくはない。

おしゃべりが好きな明るい令嬢だと思っていたのだけど、この表情は?


「全員揃ったな。では、さっさと話を終わらせてしまおう。

 ナイゲラ公爵、ミリアとジョーゼルの婚約は王命であったが白紙にする。

 理由はジョーゼルが運命の相手に選ばれたからだ。」


「なんですと!運命のお相手に!?

 …本当なんですか…?。なんということだ…。

 それではミリアとの婚約は解消しなければなりませんね…。」


なぜか嫌そうに答えたナイゲラ公爵に陛下が首をかしげていると、

ボロボロ泣き始めたミリア様が叫んだ。


「嫌です!ジョーゼル様は私の婚約者です!

 婚約を解消するなんて嫌です!ジョーゼル様は誰にも渡しません!」


「は?」


すぐ隣から低い声が聞こえて思わずびくっとしてしまう。

え?今の声、ジョーゼル様の声?ものすごく低い声で…

ジョーゼル様を見ると冷たい顔でミリア様を見ている。

まるで物か何かを見ているような、そんな冷たい表情に見ている私が辛くなる。


「…ジョーゼル、ミリアはこう言っているが、どう思う?

 ミリアとの婚約を継続させる気はあるか?

 あぁ、爵位だとか王命だとかは気にしなくていい。

 ジョーゼルが思っていることをそのまま言ってみてくれ。」


「陛下…ありがとうございます。

 ミリア様と婚約したのは四年前ですが、

 初対面で俺と結婚するのは嫌だと言われました。

 その後も会いに行けば無視され、お茶会もすっぽかされ、

 夜会に行けば別々に行動し、エスコートさせてもらえたことすらないのです。

 話しかけるだけでも文句を言われ、陰口をたたかれ、蔑ろにされてきました。

 季節の折々に手紙も送りましたが、返事をもらえたことはありません。

 贈り物は開けもせず、あなたが選んだものなんていらない、と突き返されました。

 そんな婚約を継続させたいと誰が思いますか?」


「だって、だってそれは…。」


「四年もの間、ずっとですよ。

 初めは王命だとしても年下の令嬢を大事にしようと思いましたし、

 婚約者として出来るだけ仲良くしていこうと思っていましたよ。

 だけど…これだけ拒絶され続けたら、嫌いになるには十分ですよね。」


「…嫌い?ジョーゼル様が私を?」


「ええ。嫌いです。

 ミリア様を好きになる理由が何一つありません。」


うわ…胸が痛い。

私に向けて言ってるわけでもないのに、聞きたくない。


あぁ、これがそうか。

フランツ様を拒絶していた私の言葉を聞きたくないと言った気持ちがよくわかる。

それに…ジョーゼル様は好きで拒絶しているわけじゃない。

冷たい言葉を言いながらジョーゼル様も傷ついている。


泣き崩れてしまったミリア様も気の毒だけど、でも自業自得だ。

その上、今もなおジョーゼル様を傷つけている。

でもおそらくミリア様はジョーゼル様が傷ついたなんて思っていない。

自分のことで精いっぱいで、わかっていない。


「はぁぁ。申し訳ありません。

 ミリアは素直じゃないのです。

 と言っても今さらですね。もっと早くに何とかするべきでした。」


「そういうことか…まぁ今さらだな。

 ミリアとジョーゼルへ出した王命は消す。二人の婚約は白紙に戻す。

 また同時にアンジェとジョーゼルへ婚約するように命じる。」


泣き崩れているミリア様以外の者が頭を下げて王命を了承する。

…何となくすっきりしないけれど、この話は終わりになる?


「アンジェとジョーゼルにはまだ話がある。

 ナイゲラ公爵はミリアを連れて退出せよ。」


「はっ。」


熊のような体格のナイゲラ公爵は礼をすると、

小柄なミリア様をひょいと抱き上げて退出していった。

扉を閉めても廊下からミリア様の泣き声が聞こえている。

その声が遠くなって、やがて聞こえなくなると誰かれなくため息をついた。

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