第18話 炸裂! 爆裂! 大ピンチ!
「ルリジオンさん」
「おう、早く渡せ」
櫓の外から目を離さずに急かすルリジオンの手に弓と矢筒を渡す。
弓の長さは一メートルほどだろうか。
いくつかの素材を組み合わせて作られているらしい複合弓で威力と射程は中程度。
アドソープションしたときに流れ込んできた情報から、ルリジオンの弓の腕前は達人とは言えないまでも、普通の狩人よりは上らしい。
「リュウジ、こいつをコピーしろ」
下ですでにアドソープションしたことを知らないルリジオンが弓を差し出す。
「もうしてありますよ。モードチェンジ」
俺はそう返事してミストルティンを複合弓に変形させた。
「おいおい。俺様の弓より綺麗になってやがんな」
たしかにミストルティンが変形した弓の姿は、ルリジオンが手にしているものより真新しい。
性能回復のスキルのおかげで弓が一番性能を発揮した時代の姿に戻っているせいだ。
「交換します?」
「いや、戦いの最中に元に戻られちゃあ困るからな。それに今の俺様にはこっちの方が合ってる」
ルリジオンはそう応えると矢筒から矢を一本引き出す。
矢筒の中には二十本ほどの矢が入っているが、これでオークたちを全滅できるとは思えない。
「こんな矢で効くんですかね?」
未だに壁を殴り続けているオークたちの体は、この程度の弓が刺さってもあまりダメージを与えられないように思える。
昨日の戦いで脇腹を刺したものの、致命傷にはほど遠く見えた。
「普通の矢だったらあんな化け物倒せる訳ねぇがな」
ルリジオンはそう応えながら矢をもう一本矢筒から取り出して俺に手渡す。
そしてその矢の先端を指し示して教えてくれた。
「この矢は魔物用の特別製でな。こんなこともあろうかと俺様が夜なべして作ったやつなんだよ」
たしかに普通、狩猟用の弓についている
しかしルリジオンの作ったという矢はそう言うものとは全然違った。
「これ、刺さりませんよね?」
矢筒から抜いて先端を見るまでわからなかったが、魔物用というこの
弓道とかの練習用やおもちゃならこういうのも有るだろう。
だけどどう考えてもコレであのオークどもを倒せるとは思えない。
「当たり前だろ。刺さっても彼奴らにゃ効かねぇよ。そいつは炸裂矢って言ってな、先端に炸薬が詰まってて相手にぶち当たると爆発する危ねぇ代モンよ」
「ば、爆弾ってことですか!?」
俺は思わず手から炸裂矢を取り落としかけ、慌てて両手でしっかりと掴み直す。
「おい馬鹿、殺す気か」
「す、すみません」
「ったく、こんな所で男と心中なんてごめんだぞ」
ルリジオンはそう苦笑いを浮かべながら矢をつがえ、子オークの中の一体に照準を合わせる。
そして俺に「お前は一番右を狙え」と指示を出す。
「それじゃあ『いち、にの、さん』で同時に打つぞ。打ったらすぐに次の矢を残った子オークの頭にぶちかませ」
「了解っ」
俺は慎重に炸裂矢をつがえるとルリジオンに習って櫓の壁の上面を支えに使い照準を一番右の子オークへ合わせた。
もちろん俺は生まれてこの方弓矢など使ったことは無い。
だけど今の俺にはミストルティンの力で全てが
この距離でなら子オークが予想外の動きでもしない限り外すことはあり得ない。
俺は瞬きもせずルリジオンの合図を待つ。
「いち」
ゆっくりとルリジオンの動きに合わせるように弦を引く。
「にの」
限界まで引き絞った弦を。
「さんっ!」
最後の合図と共に解き放つ。
ヒュンッ。
ボボンッ!
耳元を風の音が通り過ぎたと思った次の瞬間にはもう二つの炸裂矢が二匹の子オークの頭で爆発した。
俺はその成果に思わず歓声を上げかけたが――
「次だ! 急げ!」
ルリジオンの強い声に、まだ全てが終わったわけでは無いことを思い出して慌てて矢筒へ手を伸ばす。
そして次の標的である子オークへ向けて弓をつがえ放つ。
「喰らえっ」
ルリジオンの声と共に先ほどと同じく二本の炸裂矢が二匹のオークへ飛翔する。
しかし最初とは違い不意打ちではないそれは、予想外に俊敏な動きで避けられてしまう。
そのことに焦った俺は、もう一度矢をつがえようと矢筒から一本取り出した瞬間。
「伏せろっ!」
ルリジオンの悲鳴に近い叫び声と共に頭を床へ叩き付けられ。
その痛みを感じるまもなく激しい激突音と振動、そして体が浮き上がるような感覚と共に櫓の一部が吹き飛んだ。
「あの野郎、棍棒を投げつけやがった」
どうやら親オークが俺たちの攻撃を避けたと同時に手にしていた棍棒を櫓に向けて投げつけたらしい。
咄嗟にルリジオンに押さえつけられていなければどうなっていたかとおもうとぞっとする。
「ありゃあヤベぇな」
壊れた壁の隙間からオークの様子を確認すると、ヤツは近くの森の木を今まさに引き抜こうとしている。
今度はそれを投げつけるつもりなのだろう。
「いったん下りるぞ。急げ!」
「あ、はいっ」
俺は這うように梯子に向かうと慌てて櫓から下りる。
続いてルリジオンが地面に足を付けたと同時に鼓膜を破りかねないほどの轟音が頭上で起こった。
櫓にのこしてきた炸裂矢の残りがオークの攻撃の衝撃で爆発したのである。
頭上から降り注ぐ火の粉から逃げるように村の中へ走る俺たちの耳にオークの咆吼が聞こえてきた。
それは勝利の雄叫びなのか、子を失った怒りなのかはわからない。
ただ言えることは、あのまま櫓の上にいたら今頃俺たちは生きては居なかっただろうということ。
そして、未だに危機は終わっていないことだけは確かだった。
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