第7話 戦利品回収と希望の光
「それにしてもおかしなアイテムだな」
俺はミストルティンを変形させた短剣で、オークを解体しながら首を傾げる。
おかしいというのはミストルティンの経験値のことだ。
「普通は魔物を倒したら経験値が入るはずなのに、オークを倒しても全然経験値が入んなかったんだよな」
俺はミストルティンのステータスを表示してみる。
『
形 態:古びた短剣
モード:ソードモード
《機能》
錆が浮き、刃が欠けた短剣
』
「こっちじゃ無くて通常ステータスの方を見なきゃ」
俺は指先でステータスウインドウを突く。
そうすることで表示が切り替わることを俺は最初のアドソープションの時に学習していた。
『
ミストルティン
レベル:2
EXP:10 NEXT 20
形 態:古びた短剣
モード:ソードモード
《アイテムスロット》
1:魔法灯 2:古びた短剣
《スキル》
アドソープション・使用法理解・経験取得
』
やっぱり経験値は増えてない。
倒した後も今もレベルが上がった直後の10のままだ。
「でも《スキル》とかいう項目が増えてるな」
最初のアドソープションを使ったときに、吸収したアイテムの使い方が自動的に理解出来る様になった。
たぶんそれが『使用法理解』というスキルだろう。
「で、この『経験取得』ってのがレベルが上がって新しくゲットしたスキルってわけね」
俺は『経験取得』という表示を、先ほどステータスを切り替えたときの様に突く。
すると今度はその項目の説明文らしきものが出て来た。
「なになに。経験取得スキルは、吸収した道具に蓄積されていた経験を使用者に共有させることが出来るスキルです……か」
ミストルティンに短剣を吸収させてレベルアップした時。
俺の中に魔物と戦った経験が流れ込んできたのはこのスキルのおかげだったというわけだ。
「おかげでオークの解体も出来てるのは助かるな。ストルトスの爺はぶん殴りたいほど嫌いだけど、この短剣をくれたことだけは感謝したいね。でもまぁ次会ったら殴るけど」
それから俺は短剣の
といっても持てる量には限度があるし、そもそも今俺がいる場所も、この先に町や村があるかすら不明だ。
だから必要最低限のものに厳選し無ければならない。
「とりあえず一番美味いらしい部位の肉と、高く売れるらしい牙と……」
あと持って行くのはオークの心臓付近から取り出したこぶし大で紫色の結晶体――魔石だ。
「この世界の魔物は魔石があるパターンなのね」
漫画喫茶とかで読んだ異世界ものでは大体出てくる謎物質。
それが『魔石』だ。
そしてほぼ百パーセント魔石というものは何かに役に立つものに描かれている。
「といってもこの世界で魔石が何の役に立つかとか売れるのかとかさっぱりわかんないけど、持って行って損は無いだろ」
俺はそう呟きながら、見かけより軽いその魔石を路肩の葉っぱで綺麗にしてからリュックへ放り込む。
次に牙も同じようにして仕舞い込んだ後、そこで俺は手を止める。
なぜならここに来て重大な問題に気がついたからである。
それは。
「……生肉ってどうやって持って行けば良いんだ……」
ビニール袋があるわけでもなく、かといって葉っぱで包むにも周りにあるのは小さな葉ばかりで。
せめて調理出来れば良かったが火を起す道具も無い。
「まさかこんな所で魔法灯が火を使わない灯りってことが
俺は泣く泣く生肉をオークの死体に戻すしかなかったのだった。
-2-
森の中の一本道を歩く。
道があるということは、この先に人が住む場所があるということだ。
そう信じて歩き始めて体感時間で数時間。
空が赤く染まってきても、俺はまだどこにもたどり着けないでいた。
「このまま夜になったらどうしよう」
歩いている最中も見たこと無い動物たちと何度か出会った。
しかもそのうちいくつかの動物は凶暴で、俺はなんども戦う羽目になった。
おかげで俺は左右の茂みからいつ襲いかかられるかわからない恐怖を抱きながら道の真ん中を急ぎ足で歩いている。
「腹減った……」
神経を研ぎ澄まし、時に戦いながら進んで来た俺の腹の中はすでにすっからかん。
空腹の余り足下もおぼつかなくなってきていた。
そもそもあのコンビニ弁当以来何も食べてないのだから当たり前である。
「かといって生肉なんて食べたら多分死ぬだろうし……果物とか実がついてそうな木も道の側にはみあたんないしな」
人里でもあればそこで食事をする金は多分ある。
リュックの中に入っていた袋の中には銅貨らしきものがそれなりに詰め込まれていたからである。
「でもあれが本物の金かどうかはわかんないけど」
嫌がらせでボロボロの短剣を寄越したようなヤツが入れたものをそのまま信用出来るはずも無い。
といってもそれを確かめることも今は出来ないわけだが。
「はぁ……かなり暗くなってきたな」
俺は右手のミストルティンに目を落とす。
これ以上暗くなったらこいつを魔法灯に変化させないといけないかもしれない。
でもそうすると危険な動物やオークみたいな魔物が近寄ってくる可能性もある。
熊避けの鈴みたいに逆に近寄ってこなくなればいいんだが。
「せめて月明かりでもあれば」
空を見上げると、ポツポツと星が見える。
だがどこにも月らしきものは無い。
元々この世界には月のようなものは存在しないのか、はたまた季節的に見えないだけなのか。
それすらもわからないが、事実星明かりだけではもうすぐ歩くのも危険になるのは確実だ。
「ん?」
フラフラとした足取りで歩きながら見上げていた視線を前方に戻したときだった。
既に真っ暗になっていた森の奥に何かが見えた様な気がして、俺はその方向に目をこらす。
「あれは……灯りだよな」
森の木々の間から微かに見えたその炎の揺らめきは自然のものでは無さそうだ。
つまり、そこには確実に人がいるに違いない。
「これで炎の魔物とかだったらさすがに神様を恨むぞ」
俺はふらつく足を叱咤して最後の力を振り絞るように道を進む。
森の中の道は一直線ではなく、かなり曲がりくねっているために森を突っ切って灯りに向かった方が速いだろう。
だが森の中はほぼ真っ暗闇で、そんな中をふらついた足で進めば碌なことになりそうに無い。
「見え……た」
そうして更に20分ほど歩くと、やっと道の先にその灯りがはっきりと見える場所に出た。
二本の松明が照らしているのは丸太を縦に並べて作られた壁と、松明の間に取り付けられた扉で。
どうやらその場所は丸太壁で周囲を囲んだ小さな村のようだとわかった。
「助かった……のか」
俺は安堵のあまりしゃがみ込みそうになるのを必死に耐えて前に進む。
こんな所で座ってしまったらもう二度と立てなくなる。
「あとは村の人たちがいい人達であることを祈るしか無いな」
俺は幸せにしてくれるはずのミストルティンを強く握りしめながら扉までたどり着く。
そして残る力で扉を叩きながら「森で迷った旅人です! 助けてください!」と中に向けて叫んだのだった。
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