第4話 アドソープション!
「さて、それじゃあ行くぞ! アドソープション!」
ミストルティンのステータスを開いたまま俺はそう口にする。
「おおっ」
すると俺の手の中のミストルティンが僅かに熱を発したかと思うと、頭の中で声がした。
『アイテム:魔法灯 アドソープション完了――EXPを2獲得――得られた知識をマスターに転送いたします』
機械的な少女のような声。
『機器共有のため初期設定を開始します――完了しました』
そしてその声と同時に俺の脳内に今まで存在しなかった知識が流れ込んできたのである。
「まさか『学習』ってミストルティン自身だけじゃなく俺も学習できるとはね」
事実さっきまで全くわからなかったランプ――正式名称『魔法灯』の使い方を今は完璧に理解している。
「こうやって、こう」
壁に掛かった魔法灯に掌を向けて握るような動作をする。
すると部屋を照らしていた灯りが全て消え、もう一度同じ動作をすると灯りが点く。
「それでこうすると」
次は同じように掌を向け指を一本だけ曲げる。
こんどは目の前の魔法灯だけ消灯し他は消えない。
「コレは便利だな。さてと」
俺はミストルティンを目線まで持ち上げて見つめステータスを確認する。
『
ミストルティン
レベル:1
EXP:2 NEXT 10
形 態:デフォルト
モード:アドソープションモード
《アイテムスロット》
1:魔法灯 2:なし
』
先ほど頭に聞こえた声の通り経験値であるEXPが2増え、アイテムスロットに『魔法灯』が追加されていた。
「よし。それじゃあ次は」
たぶん初めてミストルティンを使ったときにそうなるように仕組まれていたのだろう。
魔法灯の使い方を理解する前にミストルティン自身の使い方も同じように俺には伝わって来た。
「形態変化を試してみよう」
少し恥ずかしいがどうせ誰も見ていない。
それにここは異世界で剣と魔法の世界だ。
こんなことを口走っていても『中二乙!』とも言われまい。
「ミストルティン、モードチェンジ!」
俺は無駄にポーズを決めながら
『了解しました――魔法灯モードへ移行します』
アドソープションした時と同じ機械的な声が脳内に響く。
と同時に手の中の
「おおっと」
元々壁掛け用の魔法灯は持ち手というものが存在しない。
なので俺は変化したそれを落としかけ、慌てて抱きしめるように受け止めた。
「危ない危ない。しかし頭では理解してたけど実際に見るとびっくりだな」
俺は先ほど学習したミストルティンの能力を反芻する。
ミストルティンの能力であるアドソープションは【吸収】という意味らしい。
吸収したいものにミストルティンを触れさせた状態で発動させることで、その力を手に入れることが出来る。
「そして一度吸収すれば俺の命令で吸収したものに変化すると」
しかも性能も完全にコピーされていて、腕の中の魔法灯も壁のものと同じようにまばゆい光を放っている。
さすがに眩しいのでさっきやったように腕の中の魔法灯へ片手の掌を向け指を一本折り曲げた。
「わかってたけどちゃんと消えるんだな。これがさっきまで小さな木の枝だったなんてね」
両手で光の消えた魔法灯を目の前に持ち上げてステータスを確認する。
『
形 態:魔法灯
モード:消灯
《機能》
光魔法により周囲を照らすことが出来る
』
通常状態の時と違い、変化している魔法灯の機能が表示されていた。
どうやら魔法灯はやはり火魔法ではなく光魔法を使った魔道具だったようだ。
「俺自身には何の能力も無くてどうしようかと思ったけど、こいつさえあればなんとかなりそうだ」
俺はミストルティンを元の小枝に戻すとベッドに座り込んで考える。
今の俺は処分保留状態だ。
だけど謁見の間で俺が無能だとわかってからのこの城の人々の態度。
その変り様からしてこの先の扱いも碌なものにならないだろう。
「かといって今さら
俺が無能だとわかった途端に手のひらをくるりと返した彼ら。
そんな奴らのために先頭に立って魔王軍と戦うなんてまっぴらごめんだ。
「だけどこのままだと良くてここを追い出されるだろうし、悪くすれば殺されるかも」
勇者召喚の儀式に失敗したということがどれほど大事なのかはわからない。
しかしそれなりの準備と犠牲は必要だったことは想像出来る。
「今のうちに逃げた方がいいか?」
だが部屋の前には無駄に二人の兵士が護衛と称した監視をしているはずだ。
無能の俺と魔法灯にしか変化出来ないミストルティンでは相手にもならない。
「それでも俺が生き残こるためには
幸い俺の手の中にはチートアイテムがある。
上手く能力を
「よし。決めた」
俺は足で反動を付け勢いよく立ち上がる。
そして部屋のなかを彷徨きながらミストルティンに吸収出来そうなものを探すことにした。
「……」
半時間ほど部屋中を探索した結果わかったことがある。
――それは。
「この部屋、泊まるのに必要な最低限のものしか無いっ!」
結局俺は魔法灯一個だけを頼りに、翌日呼び出されるままに王城の一室へ向かうことになったのだった。
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