アオハル文化祭
紗織《さおり》
アオハル文化祭
文化祭の前日の朝。
「まずい!模擬店の準備がまだ全然終わっていないじゃないか!!!」
僕はカレンダーとにらめっこをしながら、思わず自分の部屋で呟いていた。
僕の担当は、店の外観を作る大道具だった。
この仕事の担当になっていたのは、僕も含めた男子が四人。それも運動部に所属している男子ばかりだった。
早い話が、毎日部活を優先にしている奴ばかりで、準備はさっぱり進んでいなかったのである。
「さすがに今日中にある程度の仕上がりにしないと、クラス全員からすんごく怒られるぞ。」
こういう状況に追い込まれるといつも思う事なのだが、どうしてもっと早く始めておかなかったんだろうという後悔の念が
そして放課後。
模擬店の大急ぎの突貫工事が開始される事になった。
僕は、大道具担当の他の男子三人に早速声を掛けた。
残りの三人全員が、サッカー部員。声を掛けないと早くも部活に直行しそうな雰囲気だった。
「お~い、ちょっと待ってくれ!
これから模擬店の準備をしないか。」
僕は慌てて声を掛けた。
「小林、ごめん!
俺ら、どうしても今日の部活も休めないんだ。
今週末が試合だから、先輩から絶対に練習に来いって言われてるんだ。
本当に悪いが、見逃してくれ!
練習が終わったら、絶対に戻って来るからさ!」
三人はそう僕に言い残すと、ペコペコと平謝りしながら、部活へと逃げるように行ってしまったのだった。
取り残されてしまった僕は、仕方なく一人で作業を開始した。
教室の隅の方にずっと準備してあった木材を運んでくると、
しかし、一人で作業をしていると固定してくれる人もいないし、なかなか思うように作業が進まなかった…。
そうこうドタバタと作業を進めているうちに、あっという間に一時間位が経ってしまった。
一緒に教室内で作業をしていた、模擬店で販売する料理の下ごしらえをしていた女子達が、その準備を終えた。
その中には、幼馴染の結衣もいた。
「小林、まだ全然作業が進んでいないね。
そんな調子で、本当に大丈夫なの?
でもなんで、ずっと一人だけでやってるの?
他の男子はどうしたの?」
帰る準備をしながら、結衣が話しかけて来た。
「サッカー部の連中は、今週末が試合だから、どうしても練習を抜けられないんだってさ。」
「えっ、何をのんびりした事を言っているの!
だって今日はもう文化祭の前日なんだよ。
ちゃんと強く言って、一緒に作業をしてもらわないと駄目じゃない。」
結衣が少し怒ったように言った。
「そんな事言ったって、やっぱりしょうがないんだよ。
僕も野球部にいるだろ。だから気持ちが分かるんだけれど、自分も先輩に同じ事を言われたら絶対に休めないから、強く誘えなかったんだよなぁ。」
僕は素直な気持ちを答えた。
「本当に小林は、小さい時から優しいし不器用だな。
そんなんじゃあ、自分が困るだけじゃない。
しょうがない…、私が手伝ってあげよう。」
結衣が帰り支度をしていた鞄を机に置きながら言った。
「何々?結衣はこれから大道具もやっていくの?
私達は、これから塾に行く予定があるんだよね。
ごめんね、悪いけれど先に帰っていいかな?」
結衣と一緒に下ごしらえの準備をしていた女子が言った。
「うん、もちろんそれで大丈夫だよ。
料理の準備、どうもありがとうね。
明日は文化祭、がんばろうね。
じゃあ、バイバイ。」
結衣が答えていた。
結衣は、一緒に下ごしらえの作業をしていた女子二人を笑顔で見送ると、僕の隣に歩いて来た。
「結衣、一緒に帰らなくって大丈夫だったのか?
この作業手伝っていたら、帰るのが遅くなるかもしれないぞ。」
「大丈夫。そんな私の帰る時間なんて気にしている場合じゃないでしょ。
さぁ、どんどんやっていこう!!」
こうして僕と結衣は、二人で黙々と作業をしていた。
結衣は、女の子らしい女の子だったから、あまり技術は得意ではなかった。
でも今は、苦手ながらも一生懸命に作業を手伝ってくれていた。
その結衣の気持ちが嬉しくて、僕は休む時間も惜しんで頑張っていた。
「痛いっ!」
結衣が小さく言った。
「何、どうした?」
僕は慌てて声を掛けながら、結衣を見た。
「ちょっと、金槌で指を叩いちゃった…。」
「えっ、大丈夫か。」
僕は結衣に近寄って彼女の手を取った。
「だ・大丈夫だよ。」
結衣は顔を赤くして、パッと手を引っ込めて、僕から少し離れた。
「そんなに慌てて逃げなくっても…。」
僕は少し落ち込んでしまった。
「あっ、ごめん、つい…。
本当にごめんね。
だって小林が急に近くに来たから、何だかビックリしちゃって…。」
結衣が恥ずかしそうに言った。
「あっ、でもでも、別に小林の事が嫌とかそんなんじゃないんだよ…。
って何を言っているんだろぅ、私…。
本当にもう大丈夫だから、心配しないでっ!」
結衣は、あたふたしながら一生懸命言ってくれていた。
そんな結衣の事を見ていたら、思わず…
(結衣、可愛いっ!)
という思いが湧き上がってきてしまった。
確かにそう言われてみると、小さな頃は二人でよく遊んでいて、手をつないだりもしていた。
だけど、段々大きくなるにつれて僕は男友達と遊ぶようになって、結衣と二人だけでは遊ばなくなったんだっけ…。
幼馴染だから、話をすればやっぱり誰よりも話しやすいけれど、そんな風に自然に距離が出来てきたんだったなぁ…。
そんな風に考えていたら、なんだか急に結衣と二人っきりでいる事が恥ずかしくなってきてしまった。
二人で何となく照れ合いながら、目を合わせて恥ずかしそうにしていたら…、
「おー。もしかして、俺らお邪魔だったか?」
突然教室の扉が開いて、サッカー部の三人が教室に入って来た。
「いいや、全然っ!?
来てくれてすんごく嬉しいよ。
なんだ、今部活が終わったのか?」
僕らは、サッカー部の三人が教室まで戻って来てくれた音に、全然気が付いていなかった。
だから急に扉が開いた時、実はかなり驚いていたのだが、僕は冷静を装って答えていた。
「おー、終わった、終わった。
いやぁ、今日もきつかったよ。
小林一人に作業させているから、悪いなと思って、俺ら部活が終わったらこれでも大急ぎで駆けつけて来たんだぞ。
でも、中嶋が手伝ってくれてんじゃん。
それに俺らが教室に入って来るのが、なんだかお邪魔虫って感じまでしていたぞ!」
「…なぁ。」(三人一緒に)
三人で口を揃えて茶化すような事を言ってきたので、結衣が恥ずかしそうに顔を赤くしながら、
「良かった。三人ともちゃんと戻って来てくれて。
…もうっ!三人がいないから、私は仕方なく手伝ってあげていたんだよ。
これからは、私がいなくっても大丈夫そうだね。
それじゃあ、私はこれで帰るね。」
結衣は、そそくさと作業を中断して、逃げるように帰る準備を始めながら答えていた。
「あっ!
ゆ(…じゃなくって)中嶋!、手伝ってくれてどうもありがとうな。
本当にすんごく助かったよ。」
僕は真っ赤な顔をしながら帰り支度を慌ててしている結衣に向かって、急いでお礼を言った。
「ううん。
よかったね、三人ともちゃんと来てくれて。
それじゃあ、明日までに頑張って仕上げてね!」
結衣は、僕ら全員に飛び切りの笑顔でエールを送ってくれた。
「おー、任せとけ!
手伝ってくれてありがとうな。」
僕もサッカー部の三人も笑顔で結衣に答えていた。
結衣が帰った後、僕らは結局日付が変わる時刻近くまで作業をしていた。
そして、ついに…、
「完成!!!やったぁ~!!!」
フラフラになりながらもなんとか作業を終えると、僕らは四人でガッツポーズをしながら、お互いを称え合っていた。
そして僕は、明日からの文化祭期間中に、結衣に絶対告白をしようと心密かに誓っていたのであった。
アオハル文化祭 紗織《さおり》 @SaoriH
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