蹴球の聖域ーサンクチュアリー

赤川ユキ

第1話 果てしない未来へ

―サッカーをする者なら誰もが夢見るものがある―




 世界最大のサッカーの祭典、ワールドカップ。4年に1度開催されるその大会に出場するため、全世界中の実に200以上もの国と地域が切磋琢磨し、わずか32の出場枠を争って熾烈な戦いを繰り広げる。そして目指すのはもちろんワールドカップの頂点、すなわち世界一の称号である。


 しかしながら、2014年までに20回を数えた大会の中で優勝を経験した国は、ウルグアイ、イタリア、ドイツ、ブラジル、イングランド、アルゼンチン、フランス、スペインの8カ国しかない。




 我が国、日本は近年目覚ましい飛躍を遂げ、ここ5大会連続でワールドカップ出場を果たしているのだが、本大会の予選リーグを突破出来たのは過去2回のみ。しかも、どちらとも決勝トーナメント初戦で散っている。


 2014年ブラジルワールドカップ。その4年前の2010年南アフリカワールドカップで決勝トーナメントに進んだメンバーを多く揃え、海外リーグで活躍する選手も増え、期待の若手も何人か選出され、史上最強と呼び声の高かった日本代表チーム。それでも予選リーグでは1分け2敗の惨敗で、あっけなく大会から姿を消した。


 しかし日本サッカー協会はすぐに次の手を打つ。惨敗のショックがまだ覚めやらぬ中、早くも次の代表監督就任を発表し、すぐさま4年後のロシアワールドカップを見据えていた。惨敗とは言えども、海外リーグで活躍する選手達のレベルは決して低くない。既存の戦力に新たにフレッシュな若手戦力を加えれば、アジア突破は容易いと、この時の協会は考えていた。


 だが、翌2015年1月、その考えは砂のごとく崩れ去る。アジア地区の頂点を決めるアジアカップで、日本代表はまさかの準々決勝敗退に終わるのだった。




 アジアサッカーを取り巻く情勢は大きく変わろうとしていた。1998年に初のワールドカップ出場を果たした日本は、そこから5大会連続出場を果たし、国内リーグのレベルアップだけでなく、選手の海外進出も活発化してきたのは前にも述べた。


しかし、そんな日本を追うように、アジア各国も国内リーグの強化や、選手の海外進出の積極的サポートなどを行い、国を挙げてサッカーに力を入れてきていた。近年は日本を含むアジア諸国のレベルも上がってきており、今では日本はアジア予選突破すら難しい状況に変わってきているのだ。




 そんな難しい状況の中、日本サッカー協会は10年以内でのワールドカップ優勝を目標に掲げた。誰もが絵空事と思うような、現実が見えていないと思うような日本サッカーのワールドカップ優勝。しかし、それを信じる若者は日本全国に少なからず存在した。




 その一人。秋田県黄金台町に住む、ごく普通の中学生、葵玲央あおい・れお。通っている中学校にサッカー部はないものの、毎日近辺の河川敷で友達と草サッカーをして遊ぶ、心からサッカーを愛する中学生だった。


 大きな丸太を2本立て、ビニールシートを張っただけのゴール。雑草や小石が転がり、整地されてないグランド。玲央たち数人のサッカー仲間が集まり、自ら作ったサッカー場で、今日も草サッカーに励んでいた。2015年3月。高校入学を前に、まだ微かに雪の残るグランドで。

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